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《降谷夢》bonheur {R15}

第75章 幸甚




『えっ、と…、諸伏くん仕事は?』

「しばらく休みをもらったんだ。
だから兄さんの世話は僕がするから
美緒ちゃんは東京に戻って?」

『え…?で、でも…』





確かに私が残るより、
身内である弟の諸伏くんの方が、よっぽど世話係に向いてると思うけど…





「ありがとう、美緒ちゃん。
俺との約束、守ってくれて。」

『っ、そんな…、怪我させちゃったから
守れたことにはならないよ…』

「話は全部、風見から聞いてる。
兄さんが川で溺れかけた時
必死に探して見つけてくれたんでしょ?
美緒ちゃんは、ちゃんと兄さんを守ってくれた…、本当にありがとう。」


『諸伏くん…』




…ほんと、こういう優しいところは
警察学校にいた頃から何も変わってない。




怪我をさせてしまったのに
その事は何も責めず、お礼だけを言うなんて…


彼の優しい笑顔を向けられると
私は何も言えなくなっちゃうんだ。





『…ありがとね、諸伏くん。
お兄さんのこと、お願いしてもいいかな?』

「勿論。美緒ちゃんは早く帰って
旦那さんのご機嫌を取らないと。」


『ふふっ…、うん…。
じゃあそうさせてもらうね?』




病室の隅に置いてある荷物を抱えた私は
最後にお世話になった諸伏警部に挨拶をした。





『諸伏警部、
今回の事件でも、大変お世話になりました。
大和警部や上原刑事にも、よろしくお伝え下さい。』


「こちらこそ、ありがとうございました。
貴方のおかげで私はこうして生きています…
だから、貴方がお礼を言う必要はありませんよ。」




…その言葉を聞いて
タクシーに乗っていた時に伝えたお礼を
狸寝入りしたまま聞いていたんだな…と悟った。






『金髪の彼と揉めた時は、いつでも長野に来て下さい。
優しく慰めて差し上げましょう。」


『はは、お大事に。』





変なことを言っている諸伏警部の言葉には
乾いた笑いだけで返事をし、扉の前で頭を下げてから病室を出て、東京へ戻るために駅まで向かった。






『…早く……、零くんに会いたいな……』









…私が病室を出てから
諸伏兄弟が話していた事は、今後、誰も知る事はない。




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