第75章 幸甚
諸「私があの時…言おうとしたことですが…」
『っ、いや、あの…
ちょっと近くないですか!?』
距離を取って離れようとすると
諸伏警部はそれを許さないかのように、私の手を握って来た。
『!?な、なにを…』
諸「私があなたの側で…
あなたを支えたい、と言ったら、ご迷惑でしょうか?と…、あの時、こう言おうとしたんです。」
『…はい?』
諸「あなたは、見た目だけではなく心も美しい…、
そして、自分の弱さを克服しようと前向きな姿勢に
私は心惹かれました。
心身共に強い女性…、若山さんは
まさに私の理想のタイプです。」
『タ、タイプって…!?何を言ってるんですか!?
諸伏警部、頭でも打ちました!?』
諸「至って正常です。」
『わたし、人妻なんですけど…!?』
諸「今はあの金髪の彼はいません。
ここには、私とあなた…2人だけですよ。」
…一体何なの、この状況。
何で私、
諸伏警部に口説かれてるみたいになってんの!?
目の前にいる諸伏警部の言っている意味が理解できず、頭の中がパニック状態になっていると
諸伏警部の整った顔が、少しずつ近づいて来た。
『や、やめて下さい…!』
諸「黙って…そのままで…」
…いやいや、そのままなんて無理だから!!
私の手を離そうとしない諸伏警部…
でも、このまま大人することなんて出来ない私は、怪我人相手にどうやって抵抗しようか考えていると
私たちがいる病室の扉が、ガラッと音を立てて開いた。
「…兄さん、それ以上はゼロに殺されるよ?」
『!?も、諸伏くん!?なんでここに!?』
突然現れた諸伏くんに驚いているのは
私だけじゃなく、諸伏警部も同じのようで…
手の力が抜かれた隙を狙い
私は握られた手をバッ、と離し、諸伏警部と距離を取った。
「風見から聞いたんだ。
兄さんが入院して、美緒ちゃんも世話をするために長野に残ってるって。」
『そ、そうだったんだ…』
「…景光、久しぶりに会えたことに喜びたいところだが、少しタイミングが悪いだろう。」
「美緒ちゃんはだめだよ兄さん。
彼女は口説いても、絶対堕とせないからね。」
「…。」
…なんか空気が重いよ。