第74章 残像
『諸伏警部が救急車で運ばれた後…
炭焼き小屋のあたりで、雪崩が起きたそうなんです…』
「っ、それは…犯人によって…?」
『はい…。大和警部は…
その雪崩に巻き込まれてしまい…
見つかった時にはもう……死亡が確認されたと…』
「!!そう…ですか…」
…恐る恐る彼の反応を見たけど
取り乱さないのは流石だ。
でも、心の中では犯人に相当苛立っているはず…。
現に、諸伏警部の膝に置かれている手は
すごく力が入っていて、ギリギリと強く握り締められている。
『すみませんでした…、
大切な幼馴染の大和警部を守る事が出来なくて…』
「若山さんのせいではありません。
犯人は…、もう絶対に逃しません。」
キッパリとそう言い切った諸伏警部…
大和警部が死んだと聞かされて
涙を流して悲しむと思ったけど、まだ犯人が捕まっていないからか、感傷に浸ることはなかった。
嘆くのは事件が解決してから、と思っているのだろう。
諸伏警部のような立場の人は
自分の感情を優先できない時もあり、
例えどんなに親しい人が亡くなっても
捜査を途中で放棄できないこともある…
…その辺りは
私がSPをやっていた時と似ているのかもしれない。
しかし、今の諸伏警部の雰囲気から
慰めの言葉を掛けるわけにもいかず、しばらく黙ったままでいると、私のスマホが振動していた。
『あ…』
「電話ですか?出てもいいですよ。」
『そうですか…?じゃあ少し失礼しますね?
……はい、若山です。』
「今、少しお時間いいですか?」
『えぇ、今はタクシーに乗って
天文台に向かってるところですから。」
…電話の相手は風見さんで、
どうやら"彼ら"も、天文台に向かっている途中らしい。
風「大友 隆の件ですが
彼は猟銃免許リストに入っていませんでした。」
『え…、わざわざそれを伝える為に
電話かけて来てくれたんですか?』
風「はい。人使いが荒いあの少年から
貴方にも伝えるようにと言われましたので。」
『あ、はは…』
…公安なのに伝言係やらされてるのか。