第73章 隻眼
オーナーが言うように今を大事にして生きる事は
すごく大切だと思うけど…
ふとした時、考えることがある。
私も零くんや同期のみんなみたいに
警察官をやめてなかったら、どうなってたかな…って。
警察に戻りたいとは思ってないけど
もし今とは違う生き方をしていたら
公安の協力者になってなかっただろうし…
ポアロに行く機会もなくて、
みんなと再会することもない…
大好きな零くんと結婚することなんて
絶対なかっただろうな…
…そう考えると、私は今の方が幸せだ。
『私も会長を見習って…
一瞬一瞬の時間を大事にして、日々の生活を送ることにします!』
「ふふふ、美緒ちゃんは本当に素直で良い子だわ〜。
…それよりあなた、結婚したって噂で聞いたけど
それは本当なの?」
『え゛…、ど、どうしてそれを…』
「そんな事はいいの!それより旦那さんってどんな人?
やっぱりハンサム?頭はいいの?年収は?」
『へっ…?いや、あの……えぇ…』
なぜか
私が結婚していた事を知っていたオーナーは
相手がどんな人なのか興味津々で…
今日は警護をしていた時間よりも
ひたすら質問攻めにあったティータイムの方が疲労を感じた。
…そして、警護時間が終了したところで
私は職場の事務所に帰ってきた。
『ふぅ…。東さん、ただいま戻りました…』
「おう、お疲れ。今日はやけにぐったりした様子だな?」
『まぁ…、色々ありまして…』
「色々、ねぇ…。
あそこのオーナーさん話好きだからな〜。」
…さすが、社長。
私の疲労の原因はお見通しか。
「あ、そうだ若山。
さっき公安の風見さんから連絡あったぞー」
『え?風見さんから?要件とかは…』
「詳しくは直接会って話したいから
明日、警視庁近くの日比谷公園に来てくれってよ。」
『はい…、ありがとうございます…』
…直接会って話したいなんて
公安の協力者になってから初めてだ。
盗聴傍受の恐れがある電話やメールがだめってことは……何か大きな問題でも起きたのだろうか。