第73章 隻眼
[…刑事訴訟法改正案の審議が停滞しているのは衆議院議員の不祥事によるもので国会はこのスキャンダルの追求により、再開の目処はたっておりません。
この法案が可決されれば、組織犯罪や薬物銃器犯罪だけに適用されていた、司法取引の範囲が広がり、証人保護プログラムも……]
「あら、美緒ちゃん、
あなたそういうニュースに興味があるの?」
『あ、いえ、そういうわけでは…』
私は現在、
何度も担当している企業の女性オーナーの警護中だ。
…といっても、今はオーナーの部屋で
一緒にお茶を飲みながら雑談してるだけなんだけどね。
彼女は私の事を気に入ってくれているからか、
お仕事の休憩中はいつも私をお茶に誘ってくれる。
最初の頃は断っていたけど
最近は断ることの方が面倒くさいからご一緒させてもらっていて、たまたまついていたテレビから流れてきたのが
新たな法案の審議がストップしているニュースだった。
『私がSPをやってた頃
何度か衆議院議員の警護も担当させて貰ったんですが
こういうスキャンダルが公になってしまうと
待ち伏せている記者からガードするのが
凄く大変だったなぁ…って、思い出してたんです。』
…あの頃は本当に大変だった。
スキャンダルは議員の自業自得なのに
記者が待ち伏せしていることに腹を立てた議員が
私のようなSPに文句を言って、八つ当たりもされたから。
「それは確かにテレビのニュースでよく見る光景ね。」
『それが今では警護対象者と優雅にお茶をして…
同じような仕事なのに、全く正反対の光景ですから
昔の私が知ったら怒られちゃいそうです。』
「ふふっ。でも、あなたが警察官を辞めたことで
私は美緒ちゃんと出会えて、今こうして生きている…、それは紛れもなくあなたのお陰と言っても過言じゃないのよ?」
『えぇ?それは大袈裟に言い過ぎですよ。』
「ううん、本当にそう思うの。
あなたに命を救われたから、今の私がいる。
一瞬一瞬を大切に生きようって、美緒ちゃんがそう思わせてくれたんだから。」
…こうやって恩を感じてくれるのは嬉しいけど
やっぱり少し照れ臭いなぁ。