第72章 多幸
松「おいおい、お前まだ5才だろ?
なんでそんな強くなりてーんだよ。」
伊「何か理由でもあるのか?」
そう尋ねられた翔は
膝の上に置いていた手をギュッと握りしめて
零くんに真剣な表情を向けていた。
「パパ…ぼくにいつも言ってるよね?
ママに何かあった時は、パパの代わりにママを守ってほしいって。」
「あぁ…確かにいつも言ってるな。」
…いやいや、そんな事いつ言ってたの?
全然知らなかったんだけど…
「でもぼく…
この前ママが怖い男の人達に声かけられてた時…
なにもできなかったんだ…
ぼくすごく怖くて…ママの後ろに隠れてただけだったんだ。」
『!?』
まさか翔…
あの時のことずっと気にしてたの!?
「…おい美緒、声かけられたってなんの事だ…」
『えっと…保育園に翔のお迎え行った帰りに
買い物に行ったんだけどね?
翔の事が見えなかったのかナンパみたいなこと…されちゃって…』
確かあの時はあまりにも強引にナンパしてくるから
翔は私の後ろでずっと震えてたな…
「そういう事があったらちゃんと言えって
いつも言ってるだろ。」
『言ったら零くん不機嫌になるじゃん…』
「当たり前だろ。」
『…。』
ほらね、だから黙ってたんだよ…
零くんの機嫌直すの結構大変なんだから…
諸「…そ、それで?その男達は結局どうなったの?」
「…ママが1人でやっつけてた。」
萩「ははっ!美緒ちゃん相変わらずだね〜!
まぁその辺のナンパ男に
美緒ちゃんがやられるわけないか!」
…その通りだけど笑われるとなんかムカつく!!
「ぼく…男なのにママを守れなかったの…
パパと約束してたのに…すごく…くやしかった。」
翔は涙をポロポロと流し始めてしまい、私は翔の気持ちが嬉しくて
もらい泣きしそうになった。
それは零くんも同じようで
泣いている翔を優しく抱きしめていた。