第71章 懸命
感覚的に10分くらい経つと、
執刀医の先生が私に声をかけてきた。
「赤ちゃん出ますよ〜。そのまま落ち着いててね。」
自分のお腹の方に目を向けると
先生は両手でゆっくりと小さな赤ちゃんを持ち上げると
すぐに可愛い産声が聞こえてきた。
「おめでとうございます。元気な男の子ですよ!」
産まれたばかりの赤ちゃんは血まみれで
くしゃくしゃな顔だったけど…
小ちゃいのに元気に泣いており、私の目から涙が溢れ出た。
『っ…、やっと…会えたね。』
子供が出来たと分かってからずっとこの子に会いたかった。
ようやく会えた喜びで私の涙はしばらくの間止まらなかった。
その後、赤ちゃんは一通りの検査や洗浄をする為わたしの元から離れ、
その間に私もお腹を閉じたりなどの処置をされた。
手術が終わると、再び私の元へ綺麗になった赤ちゃんが戻ってきて、看護師さんがベットで横になっている私の隣にそっと置いてくれた。
そして手術室の扉が開き
看護師さんに連れられて零くんが私の元へ歩み寄ってきた。
『零くん見て…私達の赤ちゃんだよ。』
「ああ……めちゃくちゃ可愛いな。」
そう言った時の零くんは目が潤んでいて
今にも泣き出しそうな顔だった。
『ふふっ、泣いてるの?』
「…泣いてない。けど感動してる。」
『泣いてもいいんだよ?私さっきまで泣いてたし。』
「だろうな。目が真っ赤で腫れてるし酷い顔だ。」
『なっ…!意地悪!』
「ははっ」
零くんの意地悪な言葉にムスッとむくれていると
零くんは私の手をギュッと握ってきた。
「美緒…命懸けでこの子を産んでくれてありがとう。
僕を父親にしてくれて…ありがとう。
お前のおかげで最高に幸せだ。」
…さっきまで意地悪な顔してたくせに……
急に優しい顔になってそんなこと言うなんてずるいよ…
「…いつからそんな泣き虫になったんだ?」
『ご、めん……今だけだから…』
「ふっ、はいはい。」
困ったように笑いながら私の頭を撫でてくれる零くんの手が優しくて…
私は泣いたまま言葉に出来ないから、心の中で呟いた。
私も…最高に幸せだよ!