第71章 懸命
「大丈夫。へその緒がね、少し圧迫されているから
赤ちゃんに酸素が行きにくくなってるの。
すぐに取り出せば助かるから。ね?」
不安になってる私を安心させるように笑顔で説明してくれる助産師さん。
周りではすぐに手術を行う準備を進める為、
看護師さん達が慌ただしく動いている。
『…分かりました…お願いします…。
赤ちゃんを…助けて下さい…っ!』
助産師は笑顔のまま頷き、外で待っている零くんに事情を説明するため病室から一度出て行った。
そして私は点滴を施された後
ベットごと手術室に移動することになり診察室を出ると
SITの装備を解いた零くんがすぐに近寄ってきてくれた。
「美緒…大丈夫だ。絶対元気な子が産まれるよ。」
私の不安が顔に出ていたのだろうか…
零くんも説明を聞いて不安なはずなのに
私を元気付けるために無理矢理作った笑顔を私に向けた。
…本当にこの人は優しいな。
いつも私の事を優先して考えてくれて……
零くんに励まされると何とかなる気がしてくるから不思議だ。
『ありがとう…
もうすぐ…私達の子供に会えるよ。』
「ああ…僕は中に入れないから…信じて待ってる。」
手術室の前に着いてから零くんは看護師さん達に
「妻をよろしくお願いします。」と頭を下げてから私の頭を一撫でして見送ってくれた。
手術室に入ってから
血圧計や心電図モニターが装着されて麻酔の注入が行われた。
全身麻酔ではなく局所麻酔で背中から針を刺され
少し経つと胸から足先への感覚が無くなった。
意識ははっきりしているから、助産師さんや看護師さんと会話することはできる。
「落ち着いて深呼吸しててね。」
『はい…お願いします。』
私の言葉を聞いた医師はメスを握り、痛みはないけど皮膚を切られる感覚がした。