第20章 約束
食事を済ませると、店の外は日も落ちて薄暗くなっていた。進む先に目をやると、少しずつ店先に明かりが灯っていく。
隣を歩く先輩が立ち止まり、振り向いた。誰か知り合いだったのか、挨拶をしている。釣られて後ろを振り返ると、驚きの声が上がる。
「ああ!」
声の主を見定めて、僕もまた目を見開いた。
そこには、あのナズナさんがいたのだ。
あまりの驚きに言葉もなく呆然としていると、素早く状況を察知したカカシ先輩はにやりと笑い、僕の肩を叩いた。
逆に状況を掴めずにいる彼女に、先輩は何か託して颯爽と去って行く。どういう繋がりなのかまったくもって謎だが、先輩とナズナさんは顔見知りのようだった。
薄闇の中、二人取り残される。
まだまだ人が行き交う通りだ。立ち止まったままとはいかず、道の脇に寄る。
戸惑いながら見上げてくる瞳に、心臓が脈打った。事情を説明すると、彼女は安心したのか強張った表情を和らげた。
街の賑わいが少し遠ざかるように感じる。
今言わなければ、と僕は知ったばかりの彼女の名を呼んで、僕の名を告げた。
「僕は…」
*
その後のことは、あまり覚えていない。
ただ、ある場所で、明日の昼頃会う約束をしたことだけは忘れなかった。
彼女の言葉のかけらが、優しく耳に残っている。また会えるのだと思うと、僕の頬は知らぬ間に緩んでいた。