第8章 卒業試験の行方
私が給湯室に入ると先客がいた。
先ほどイルカ先生と共に、卒業試験の試験官をしていたミズキ先生だ。
「ミズキ先生。試験官お疲れ様でした」
「ああ、ナズナ先生でしたか。お会いするの久しぶりですね」
ミズキ先生は、湯呑みを取るでもお茶を入れるでもなく、そこに佇んでいた。
「休憩ですか?良かったら、今からお茶を入れようと思っていたんで、一緒に入れますよ」
置いてある急須と茶葉の入っている缶を手に取りながら、私は笑いかけた。彼は曖昧に笑い頷いている。
「それはありがたい。では、お願いします」
「あ、席まで持っていきますよ。待っていてくださいね」
私が急須にお湯を注ぎながら言うと、彼は微笑みながら自分の席へと戻っていった。
(何してたんだろう?)
私がこの部屋に入ったとき、ミズキ先生は壁際にある小窓から外を眺めていた。単純に一人でほっとしたいと、ここに入る人もいるのかもしれないが、その視線は妙に鋭くて嫌な感じがした。
ミズキ先生は、イルカ先生と同じく男子生徒のクラスを担当している。甘いマスクに長めのさらりとした髪型の好青年である。スマートな立ち姿と柔らかな物腰にも関わらず、大型手裏剣などの暗器も扱うところから、結構女生徒にも人気がある教師だ。
――今回は大目に見ても……。
ナルト君の卒業試験では、彼はそう口添えしてくれたとイルカ先生は言っていた。けれど、今思えば私は彼と同じ考えだったのだと気づく。
一見優しいように見えて、その実本当に生徒のことを考えてるとは言えない言葉。基準に達していないまま卒業して、そのあと苦労するのは生徒なのだ。
(やっぱり、イルカ先生みたいにはいかないな)
そんな風に思って、私は三つの湯呑みにお茶を注いだ。
お盆に湯呑みを載せて、それぞれの席へと運ぶ。他の生徒の受験状況を聞きながら、私はお茶を飲んだ。
いつもと同じように入れたのに、今日のお茶はやけに渋く感じた。