第39章 隣
翌日、私はアカデミーへと顔を出した。
体調が無事調ったのもあり、授業は滞りなく進む。元気のない子もいたけれど、欠席はなくほっとした。
「俺、でっかい熊に乗ったんだぜ!」
「私も……。いきなり体が浮いて恐かったぁ」
「あれって、どこから来たんだろ?」
そんな会話をちらほら聞いた。
口寄せ獣のことは、共に足止めした男性教師しか知らず、彼も特に出所を話さずにいてくれたようだ。まだ確実とは言えない口寄せだったし、その配慮はありがたかった。
あのときは助かった、というお礼の言葉が、職員室でそっと交わされた。彼の傷はもう癒えており、実技の授業を始めている。
*
今日最後の授業を終えて、職員室で事務処理をしていたときだった。
「ナズナ先生、もう大丈夫なんですか?」
イルカ先生が椅子に座りながらそう言った。心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
「ええ。もうすっかり。どちらかと言うと、雨に濡れたせいで風邪を引いたことが堪えまして。先日は、半日寝ていましたよ」
「はは…それは災難でしたね」
「雨くらいで体調崩すことって、あんまりないんですけど」
私は、日誌に今日の授業内容を書き付けながらそう答えた。
「疲れが出たんじゃないですか?随分と思い切ったことをされたようですし」
声の調子が変わったことに気付いて、私は顔を上げた。イルカ先生が眉を下げて、こちらを見ている。
「すみません。皆さんにご心配をかけたようで…」
「そりゃそうですよ。生徒は皆いると安心してたのに、教師が一人いないと大騒ぎになりましてねぇ」
「え?…まさか」
そんな大事になっていたのかと驚いて、私は体をイルカ先生の方へ向けた。彼もまた、椅子を動かして私の真正面に体を向ける。
「いいですか、ナズナ先生。…単独行動は以後慎むように。生徒たちにもよく言ってるでしょう」
腕を組んでいる彼に叱られている。まるで教師と生徒だ。
「……はい。反省してます」
私が物々しく頭下げると、イルカ先生が笑った。
「それはともかく。二人のおかげで避難所に無事たどり着けましたし、里の人たちからもお礼の言葉をもらいましたから。まあ、結果的には良かったんですけどね」
「そうだったんですか」
「…でも」