第38章 伝えたかったこと
私は、翌日風邪で寝込んでいた。先日、長く雨に濡れたのが原因だ。
母は呆れ顔で熱冷ましの薬を作り、早々に自宅を出て行ってしまった。今回の襲撃で出た怪我人は多く、まだ治療要員として木ノ葉病院へと通っている。
明日からはアカデミーも再開する。何とか今日中に体調を整えて、と息巻いて、自分でも薬を調合した。母は帰宅が遅くなるらしく、事前に必要な薬草を準備してくれていた。
(懐かしいなぁ。昔は教えてもらいながら、よく作ったっけ)
熱冷ましや咳止め、腹痛や頭痛を和らげる薬。はたまた痺れ薬の解毒薬など、いくつかの種類を学んだ。それを、主に自分や家族のためによく使った。
薬を飲み眠り続けていると、いつの間にか昼下がりになっていた。熱も下がり、体調も回復している。これなら、明日は問題なく、授業も出来るだろうと私はベッドから起き上がった。
すると、ベランダで何か羽ばたく音と、窓ガラスを叩く音が聞こえた。
(ひょっとして…)
私は窓辺に寄り、閉めたままだったカーテンを開けた。
眩しい光に目を細める。
そこにはテンゾウさんの連絡鳥がいた。嘴に封筒をくわえて、ベランダの柵に留まっている。
(手紙?)
ベランダに出て封筒を受け取ると、彼は、何度か両翼を羽ばたかせて飛び立った。室内に戻ろうとしたら、マシロが巣箱から出てきてぽん、と私の肩に乗った。
封筒を手に、肩口に目をやる。
「中に入る?」
そう問いかけると、マシロが小首を傾げるような仕草をした。
*
葬儀の場で言葉少なに別れた後から、テンゾウさんには会っていない。あのときの寂しげな微笑みが、未だに目に焼き付いている。
ベッドに腰をかけて、私は封を開けた。中には一枚便箋が入っている。
折りたたまれた白い紙をゆっくり広げると、書いてあったのはたった一行。
──君に会いたい。
私は思わず息を呑んだ。
いつにとも、何処でとも書いていない。でもその一文に心が震えた。
今彼が何処に居るかも分からない。連絡鳥を寄越したということは、もしかして自宅なのだろうかと、ベランダへと飛び出した。