第36章 救いの手
(まさか、こんなことになるとはね…)
里のあちらこちらで戦闘が起こっている。一番の激戦区は中忍選抜試験会場だった。その場所には多くの観戦者と共に、三代目火影がいる。
僕は仲間の知らせを受け、会場へと向かっていた。里周辺の警戒に当たっていたが、急ぎ中心部へと駆ける。
途中、襲撃を受ける里の人々に手を貸しながら進んでいくと、前方に突然山のように大きな影が浮かび上がった。
(何だ?)
土煙にまみれて現れたのは、巨大な熊だった。ビリビリと振動が伝わるほどの唸り声を上げて、火影岩の方向へと走っていく。
(まずいな…口寄せか!)
敵の忍が呼び寄せた契約獣かと、僕はそこに向かって、出来うる限り足を速めた。あの大きさでは、周囲の人々の抵抗も一たまりもないだろう。その一凪(ひとなぎ)で吹き飛んでしまう。
同じ方向に、敵方と見える砂の忍が駆けていく。建物の屋根の上を飛ぶ者、道を走る者。彼らは何故か、地響きを立てて遠ざかっていく熊を追っている。
(あれは、敵の呼び寄せたものじゃないのか?)
敵の一団を追うように進むと、一人が僕に気付いて襲い掛かってきた。
「貴様!木ノ葉の者か!」
飛び交う手裏剣を避け、相手に一気に近づき忍び刀で切りつけた。彼は体勢を崩し、屋根から転げ落ちた。
後方に跳躍し、屋根から地面へと降り立つ。数人が僕の前方を遮った。じりじりと間を詰めてくる。
左右の気配を確認しつつ、通りの前方に目をやると、一人地に倒れ伏している人がいた。木ノ葉の忍び装束を着た、華奢な体躯をした人物。肩くらいの長さの髪が乱れて顔にかかりはっきりとはわからない。だが、どうも女性のようだった。
背後に気を配りながら、その人物の方へと少しずつ近づいた。庇うように前に立ち、刀を構える。
「風遁…」
彼らが印を結ぶと、周囲に風の刃が巻き起こった。
「木遁・木錠壁!」
数人が術で繰り出す風の刃を、木製の壁を生み出して防ぐ。半円形に囲うその壁を乗り越えてくる数人の全身を、木遁で拘束した。術に力を籠めると、ギリギリと木が彼らを縛る。その圧力で彼らは気を失った。