第34章 混乱
「ナルト君は今頃本選ですかね」
私はアカデミーの職員室にいた。自分の席で授業の合間の事務作業をしている。隣にいるイルカ先生は、頬杖をついてずっと考え事をしていた。
「え?ああ。そうですねぇ。そろそろ本選の一試合目でしょうか」
イルカ先生が弾かれたようにこちらを見る。机の上の書類は手付かずのままだ。私は思わずくすっと笑った。
「イルカ先生、残念ですね。皆の試合を見たいでしょう?」
「それはナズナ先生も一緒でしょう。アカデミーの授業が重なったら、仕方ないですよ」
先日、カカシさんに応援をと力強く言ったのだが、実際のところ当日は授業があり、観戦は出来なかった。
上忍の方たちは、本選の運営と警備などを任されている人がほとんどだし、この試合を楽しみにしている里の住人も多い。国外から観戦に来ている大名、忍たちもいる。
皆こぞって中忍試験の本選の会場に集まり、大会開催中、周辺は賑わいを見せていた。
アカデミーにいるのは、授業のある生徒たちと教師ばかり。いつもより建物内は静かだ。
「ナルト君の対戦相手は、確か…一年先輩の日向ネジ君でしたよね」
「ええ。日向家の…ナルトの奴、最近随分頑張っていますが、彼の柔術とまともにやりあえるかどうか」
イルカ先生は戸惑いを隠さず、椅子に背を預けて大きく息を吐いた。私は作業の手を止めて、彼を見た。
「そうですね。体術だけっていうと難しいのかも…」
「日向家は瞳術もありますからね。『白眼』はアイツも初めて見るだろうし」
「白眼」は、木ノ葉隠れの里の忍が持つ、二大瞳術の一つだ。
白眼は日向一族。もう一つは、うちは一族が代々所有する、「写輪眼」。うちはサスケ君の一族。
一方は体内のチャクラの流れを読んだり、遠くにいる者を感知したり、もう一方は術を見極め、強い幻術を掛けたり出来る強力なもので、多くの忍が憧れる瞳術だ。
「瞳術に太刀打ちするのは難しいですよね。それに初めて目にするとなると」
私が術について何気なく呟くと、イルカ先生がそうですよね、と力なく肩を落とした。