第31章 途絶えた知らせ
不意にベランダで鳥の羽ばたきが聞こえ、窓の方を見た。
白い鳥が一羽、ベランダの柵に留まっていた。テンゾウさんも気付いて、そちらに顔を向ける。
「ああ、僕が使ってる連絡鳥だよ」
「同じ種類みたいですね」
「うん、マシロと一緒かな。マシロが雌で、こっちが雄だね」
「へぇ。あの、近くで見てもいいですか?」
「もちろん」
私は立ち上がり、窓辺に寄った。
白い鳥は毛づくろいをしている。ふと見ると、ベランダには木の巣箱がある。傾きのない綺麗な形をしていた。
感心して窓ガラス越しにじっと見つめる。いつの間にか、テンゾウさんが私の傍に来ていた。ガラスに手を置いているから、すぐ後ろに彼の気配がある。
「あれは、テンゾウさんが作ったんですか?」
ドキドキしながら、巣箱を指さす。斜め上に彼の顔が見えた。
「そうだね」
「すごい!綺麗な仕上がり…」
「そうかな」
「やっぱり常に勉強してると違いますね。私も見よう見まねで作りましたけど、ガタガタで…これをみたらマシロが可哀想になってきちゃった」
ふふ、と思わず笑うと、彼も微笑んだ。
「そんなことないさ。君が心を込めて作ったんだろ」
「うん…毎日使ってくれてるから、取りあえずはいいのかも」
「それなら問題ないよ」
私は巣箱にもう一度視線を向けた。鳥は柵から巣箱へと移動している。
「でもまた作り直すことがあったら、そのときは作り方教えてほしいなぁ、なんて…」
「ああ。そう言うことなら、喜んで」
近くで降ってくる声が優しくて、じんわりと胸が温かくなった。
私は窓から離れて座卓の傍にまた座った。カップに残っているお茶を飲み干す。
テンゾウさんは、まだ窓辺に立ち外を眺めていた。その横顔は憂いを帯びている。
「……テンゾウさん?」
いつもとは少し違う寂しそうな表情を見て、私はそっと彼の名前を呼んだ。
「え?ああ、ごめん。…ちょっと考え事をね」
振り返った顔にも疲れが滲んでいる。
窓からの光が彼の背に当たり、顔に影が差した。