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明日晴れたら

第27章 変化



その夜、僕は自宅で手紙を書いていた。

いつもの数行の告知ではなく、もう少し長い文章だ。
書いているうちに長文になり、何度も推敲を重ねてようやく一枚に収まった。それを、早朝ナズナさんの家に届けようと思っていた。

ありがたいことに明日は休暇をもらえ、早朝に送れば彼女はきっと気づいてくれるだろう。運よく夕方予定がなければ、彼女に会えるかもしれない。

したためた手紙を白い封筒に入れて、封を閉じる。
表には彼女の名前、手紙には僕の住所も添えた。例え半月前の手紙であってもいいから、彼女の言葉を聞きたいと思うようになったからだ。

住所は一度曖昧に誤魔化したこともあり、彼女がどんな反応をするのか気になりはした。それでも、伝えてみないことには始まらない。いずれ話さなければならないことは、いくつもあった。


残念ながら、僕はナズナさんのことをまだあまり知らない。

アカデミーの教師で、熱心に取り組んでいること。
家族がいること。
父親の口癖を大切に思っていること。
ドライフルーツ入りのパンが好きなこと。
……僕と同じものを気に入っていること。
少しずつ増えてはいる。


あの日不安気に揺れた瞳を見て、僕は反射的に彼女の手に触れてしまった。

(何をやってるんだか…)

僕は自嘲しながら、手紙を座卓の上に置いた。そうして、床に座り込んでじっと手を見る。

彼女の手は柔らかかった。少しひんやりとした手の感触が残っているように感じてしまう。

(結構重症だな、これは)

ちょっとした興味から始まった縁が、こうも心を揺さぶるとは思いもしなかった。

会えたらは会いたいに変わり、常の冷めた感情が嘘のように熱を持って渦巻いている。それを遠くから眺めて、一人笑った。

僕はこの感情を知っている。
それがここ最近の変化の原因だと言うことも。

浮かれる程とは、さすがに気が付かなかったけれど。

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