第26章 恋心
「ナズナさん。貴女は…口寄せは使わないの?先代の忍術を継承するって人、多いと思うけど。あの術は非常時にとても役立つものよ」
「そう、そうですね。…口寄せ獣と契約は交わしていますし、何とか使うことは出来るんですが、私はチャクラ量があまり多くないみたいなんです」
私は俯いた。
指摘されたことは最もで、必ず使えると断言できない自分が少し恥ずかしかったのだ。
「父のように、長時間呼び寄せることは出来なくて」
「そうだったのね。でも…」
紅さんは私を見て笑った。その微笑みは先ほどからの妖艶なものでなくて、優しさを含んでいるように思えた。長い睫毛(まつげ)を伏せて囁(ささや)く。
「少しでも使えるのなら、いつでも使えるように備えておくことも大事よ。それは、貴女の大きな武器になる」
「……」
「これからは、何が起こるかわからない時代よ。貴女も素養があるなら、鍛えておくべきね。まぁ、これは私が言うことではないかもしれないけど」
小首を傾げて彼女がそう言った。
「アカデミーでは、教え子から気づかされるってことも多いでしょ。私もそうだけど」
「まさか!上忍の紅さんがですか?」
何気なく呟かれた言葉に、私は思わず声を大きくした。
「何よ、そんなに大きな声を出さなくてもいいじゃない。それは当り前のことよ」
紅さんが珍しく苦笑する。口元に手を添えてくすくすと笑う仕草は、近所のお姉さんのように親しみやすく感じた。
「これでも貴女を応援しているの。これからも下忍になる子には、小さな積み重ねを軽んじてほしくないから」
そう言いおいて、彼女は演習場を去った。
意外なことに、「またね」という言葉を残して。