第22章 手紙
「まあ…いずれにしても、見てみないことには分かりませんよ。一度確かめてみるといいでしょうね。何かあれば、俺も相談に乗りますから」
「そうそう、まずは見てみないとね」
左隣の彼女が、自身の作業を進めながら付け加えた。
左右の先生が気にかけてくれて、心強い。私はお茶を一口飲んでから、白い封筒をそっと開けてみた。
封筒を開けると、中には白い紙が一枚入っていた。二つ折りのそれを開くと、短く三行したためてある。
── 〇月〇日夕刻
木ノ葉茶通りの文具店にて待つ
テン
宛名と同じく丁寧な文字だった。
(テン…?)
最後に記された名前と思われる二文字で気づく。
「あ!」
思わず出てしまった声で、両隣の二人が驚いた。
「どうしたの?」
「ま、まさか。やっぱり果たし状だったんじゃ…」
振り向いた二人にかぶりを振る。その顔はひどくにやけていたかもしれなかった。
「すみません。大きな声を出して…。全く問題ありませんでした」
「あら、そう?それならよかったけど」
彼女はほっとした表情に戻り、また作業を始めた。イルカ先生は不思議そうな顔をして、私の持つ紙を覗き込んだ。
「一体何が書いてあったんですか?」
「それが、たまにしか合わない知人からでして」
説明に迷い、私はそう答えた。
イルカ先生が文面を読み、ふっと笑う。
「これは…随分と古めかしい文章ですねぇ。年配の方なんですか?」
「うーん。そうですね、ちょっと古風な人なんです」
「へぇ。これ、本当に果たし状みたいに見えますよ。必要最低限のことしか書いてないってのが、合理的と言うか何というか…」
「ふふ、本当に」
怪しい文書でないことが分かり、イルカ先生はお茶を一口すすってから、また作業を開始した。
私は手紙をまた封筒に戻し、自分の荷物にしまい込んだ。真面目な顔をしようとしても、頬が自然と緩んでしまう。唇をぐっと引き締めて、イルカ先生に声を掛けた。
「私、自分の受け持ちが片付いたので、書類の確認手伝いますよ」
はっきりと明るい声が出る。
「そうですか?…なら、この一束をお願いします」
「はい!」
彼から書類の一束を受け取り、腕まくりする。今は、いくらでも働けそうな気がした。
テン…テンゾウ。
そして、文具店。
先ほどの怪文書は、待ち望んでいた人からの連絡だったから。