第1章 実験体
「……(おはようございます)」
冷え切ったガラスに息をかけて文字をなぞる。"起きてるじゃないかァ!"と奇声じみた声が上がり、研究員が慌てて管の開閉スイッチを押した。
「う……ッ、ちべたい゙!」
「でしょうね」
なにせこの管に充満した魔力はエーテル剤のように冷やして圧縮してある。液体のように重いそれは熱に触れた端からゆっくりと気化して蒸気のように立ち昇った。体が純粋に筋力でなく魔力で動いてる私は寒さなど感じないので差し障りない。
私は死体だ。瀕死以下……“完全な死”を克服する名目の実験があった。内容は当時見つかっていた中でも一番強く意識に作用する"レイズ"、外傷を深く治癒できるケアルガを併用したもの。……結果は失敗だった。しかし死んでいた筈の私は何の前触れもなく意識を取り戻した、眠りから目覚めたようにしか感じなかったのは覚えている。解明出来ない謎が残った私は召喚獣達と同じように管理されていた、魔力を冷縮した管で保管される遺体。それが私だ。
歩く屍を訪ねに来る者は限られた魔導研究所の人間のみ。その中でも取り分けケフカ様に気にいられている。こんな死に損ないの相手をしてくれる唯一の"人間”だった。