第2章 カナリア色に口づけを
『優しすぎる』
そんな言葉が脳裏に浮かんだ。
何日も、何ヶ月も我慢を強いられ、ようやく契りを結び、臨んだ今日という日だのに、それでも私の想いを優先してくれる。
なんて献身的なのだろう。なんて自己犠牲的なのだろう。そして、なんて優しい人なのだろう。
怖がる要素など何処にも存在しなかった。
ああ私はなんてバカな女なんだろう。
フレンは、いつだってフレンなのに。
ソファへ向かおうとするフレンの腕をぎゅっと握る。
「どうしたんだい?」
突然の行動に、フレンは少し驚いた様だが、すぐさま振り返り、私と同じ目線になるよう、腰を屈めてくれる。
尽くしてもらうばかりでなく、私もフレンのために行動したい。もっとフレンに喜んでもらいたい。だって私たちは夫婦なのだから。
私は勇気を振り絞って口を開く。
「怖くない。フレンはフレンだから、怖くない」
突然の言葉にフレンはいささか呆気にとられたようであったが、すぐに真摯な表情で口を開いた。
「本当かい?」
「本当」
「二言はないね?」
「うん」
はあ、と安堵の深いため息をついた後、彼は優しく私を抱き寄せた。
「…本当は少し怖かったんだ。がっつき過ぎて君に嫌われたかと思って」
耳にかかる息と、伝わるフレンの鼓動がとても心地良い。
抱きしめる力を少し緩め、フレンは静かにこちらの顔を覗き込むと実直な表情でひたと私の瞳を捉え、口を開く。
「大切にする」
まるでドラマのようなクサい台詞。けれどその言葉を本心で嬉しいと感じてしまうのは、フレンの生真面目な性格が言葉に箔を付けているからなのか、それともただ単に、私が彼の全てに夢中だからなのか。
まあ、そんなことはどうでもいいか。今は私の全てを彼に委ねたい。
私は静かに瞳を閉じ、フレンの唇を受け入れた。