第3章 トクベツ
その日は珍しく玲王の方からメールがきた。
今から来れるか?というシンプルな内容。
玲王から声掛けてくるなんて、何かあったのかな…?
とりあえず勉強がひと段落したところで玲王のマンションへと向かった。
タワーマンションの最上階、都内を一望出来るそこからの景色は夜の街がキラキラと宝石のように輝いて見える。
コンシェルジュに案内され中に入ると、ちょうど今から出掛けるのか玲王のお父さんと出くわした。
『おじ様、お久しぶりです。』
「ちゃんか、久しぶりだね。」
玲王のお父さんはビシッとスーツを着こなし、威厳のある佇まいで秘書らしき人を携えている。
一言二言、秘書らしき人に指示を出すと何か話しがある様子で私の方へ向きなおった。
「玲王の話は聞いているかな?」
『・・・話し、ですか?』
首を傾けると、おじ様は困った顔で肩を竦めた。
「サッカーに夢中になっているのは一時的なものだと思ってたんだがね。
またいつものように飽きてすぐに止めると思ってたんだが…。
今回ばかりは手強くてね、私も妻も困っているんだよ。」
『あー…玲王、かなり本気で頑張ってますからね。
今やちょっとした有名人ですよ。』
フフッと笑って答えると、おじ様は渋い顔で首を横に振った。
「いや、高校レベルで結果を出したところでその先には何もない。
ほんのひと握りがプロへと入り、運良くその選手が日本を代表する選手になったとしてもだ、たかが数億程度しか稼げない。
ーーーーそれが現実だ。」
『・・・・は、はぁ…』
まさかそんな話をされると思わず、曖昧な返事をする。
御影コーポレーションの社長ともなれば、動かすお金は何十、いや何百億。
サッカー選手の年俸など比にならない。
おじ様は玲王の選択が全く理解出来ないとばかりにため息を吐いた。
そして、それまでの口調から一転、おじ様の声色が変わった。
「ちゃんに一つ、頼みたい事があるんだ。」
有無を言わせない程の威圧感に、ゴクリと唾を飲み込んだ。