第4章 船乗りの休暇
龍水の腕にそっと両手を添えて、が目を瞑った。
「……龍水は優しいな」
その言葉に、龍水の印象的な大きな瞳が見開かれる。
「優しい?俺がか。そんな風に俺を形容する奴は居ないぞ、。慰めで言ってるのか」
の顔をまじまじと見詰める龍水にが微笑んだ。離れる腕に手を添えて、離さないで欲しいと言う様に。
「いいや、龍水は優しい。君はあまり誰かの見返りとか気にしないだろう?好かれようとも思わない。他人に期待した物を返して貰えないからと、攻撃したりもしない。支払った対価こそ求めるがそれ以上の感情や感謝も求めない。それが出来る人は早々居ないと思うよ。私は単独行動が多い故に、他人と仕事以外で接する機会も少ないが……
君は違うだろう?自身の欲の為に他人を巻き込める。嫌われようとも他人を欲しがる。私は直接会って過ごした期間こそ短いが、誰より君と連絡を取っているのでな。君の行動も感情も逐一聞いてるし、君の行為を第三者がどう評価したかまで知ってるんだ。——少なくとも、七海財閥の外に居る人間の誰より、知ってる筈だ」
《七海龍水》という人間を。
が自分なりに、龍水の為だけにゆっくりと言葉を編む。紡いだ言葉が霧となり空に消えるのを掴むように、龍水の離れた腕が再びに手を伸ばす。伸ばした先にあるの頬は熱い。火照った顔で恥ずかしそうに『はは、自惚れかな?』と笑うにつられて笑った。
「貴様の方が余程優しいぞ、」
「そうかな?」
「ああ。矢張りは綺麗だ。世界で一番だ。ここは、然るべき対応をせねばな」
覚悟を決めた顔で龍水がに向き合う。