第4章 船乗りの休暇
「様。よろしいでしょうか?」
「はい。寧ろ態々ありがとうございます、フランソワさん」
フランソワがてきぱきと箱を開けた。折角の豚まんに匂いが移る、あと絶対冷めてるとが気付いたが、今は言い出せる雰囲気では無い。
「——!!、これは」
明らかにを名指しで誹謗中傷が書かれている嫌がらせの紙の束。腐臭もする。
「それを処理したから臭うかと思って風呂に入ったんだ。悪い、嫌なものを見せて」
そう眉を下げるを横目に、龍水がポストのおかしな中身全てに目を通した。驚愕に見開かれた眼が段々冷静さを取り戻し。仕舞いには、零度以下の殺意すら篭った眼差しになった。
「不釣り合いだと?が綺麗でないと?これは」
【度し難い】
そう低く響く声に込められた殺気にがあてられてびくりと震えた。
「明日管理人さんに来てもらって対策もして貰う予定だったから!別に内容も私は気にしてないし」
「そういう問題では無い!!」
龍水の大声にの身体が跳ねる。俯く龍水が呟いた。
「、済まない。貴様をこんな危険な目に合わせた。俺は船長としても、貴様の婚約者としても失格だ」
自身を責める龍水に、が言葉に詰まる。船で起こったトラブルには慣れっこだが、こういう時は本当にどうしていいか分からない。
「龍水は悪くないよ。そもそも悪いのはこんな風にイタズラする方だし。監視カメラとか付いたら普通に被害減るらしいから何とか」
「それは違うぞ、」ふっ、と。龍水が悲しげに笑いつつをふわりと抱きしめた。先程までとは違う、何時でももがけば取れてしまいそうな脆いホールド。
「俺のやった事で閉め出しを食らったり批判を俺自身が受けるのはいい。だが貴様に矛先がこんな風に向くのは違う。には俺を嫌悪する権利がある」
柔く、壊れ物を扱うような龍水の抱擁にの思考が一時停止した。まるでが心底大事で、本音では嫌われたくないとでも言う様にの身体に僅かに指を添える。これでは本当に、他人に嫌われようとも『俺は好きだ、欲しい!』と言える龍水が自分にだけは例外として好感を持って欲しいと思っているようだ。