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我が先達の航海士

第2章 First dreamers


「これより第一回、航海士志願者入試を始める」
兵庫県、大学。木造椅子と机の居並ぶ年季の入ったレトロな教室にて、が第一声を放つ。眼前には百人近い受験者達が居並ぶ。あの七海龍水が内航船、即ち国内航路の船員を標準の数倍高い給与で合格者を雇うのだ。帆船航海ではあるが、是非選ばれたい。皆がスッと黒板に立つ凛を見据えている。

……ひとりの人影を除いて。癖のある黒髪に異国の血が混ざった顔立ちの彼は最後列の椅子の上で体育座りをして、ブルブル震えている。八月半ば、セミの五月蝿い季節だというのに極寒の地にいるかの様だ。凛は構わず試験スタッフに指示して、試験用紙や筆記具を配布した。鉛筆と消しゴム、二対の三角定規。デバイザーと呼ばれる、円を描くコンパスの両先端が針のように尖ったモノ。海図と問題用紙が配られた。

「今回の選抜では、先ず筆記試験を受けてもらいます。突破した方のみ次の口述の受験資格を得ます。口述では船長七海龍水。私、一等航海士のが面接を担当します。皆、心して」
「はっはーーーーっ!SAIはちゃんと来たか!?」
「ピギャアアアアアアアアア!!」
教室のドアをズシャアッ!と派手に開けて現れた龍水に、震える人影——七海SAIの精神が我慢の域を超えた。席を立ち全力で抜け出そうとするが、教室前方の出入口に辿り着くと龍水が目の前に居る。

「フゥン?人を見て逃げ出すとは無粋な奴だ」
「は、離せ!僕はっ、お前とは関わりたく無いんだよ龍水ッ!!」
じたばたするSAIを捕らえて席にストンと置く龍水。
「龍水君。言ったよな?SAI君が嫌がるからせめて教室には来るなって」
「、無理だなそれは。俺が見張らないと逃げ出すだろう?フランソワ、例のものを持ってこい!」
バッシィィイン!!と龍水が指鳴らしする。フランソワが夏用の肌触りがひんやりした布団とロープを持ってきた。再びピギャアアアアア!!と悲鳴を上げるSAI。胴体部分を布団で巻いてからロープで座席に固定される。軽い簀巻き状態だ。他の受験者が呆気に取られる中、龍水はSAIの後ろで丸椅子にドカリと座った。
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