第13章 一日奥方2 【三成】
もう何日襖を閉め切り、朝も夜もわからぬまま過ごしてきたのだろう。
私は今、眠っているのか、起きているのかもわからない。
忌まわしい私の失態をひたすら悔い、このまま消えてしまいたい‥‥ただそれだけ。
「三成くん‥‥起きて‥‥」
耳に心地よく染み入る、優しい声がした。
「ん‥‥?」
目を開けると、そこにいたのは
名無し様‥‥?
「おはよう」
「名無し様‥‥?な、なぜ‥‥ここに?」
彼女は襖を開け放った。
「うっ‥‥」
ずっと引きこもっていた私の目を朝日が容赦なく刺す。
眩しくてしばらく目を開けられない。
「いきなりお邪魔してごめんなさい。私、今日一日、三成くんの妻になりに来ました」
「‥‥私の‥‥妻に?」
どうやら、まだ夢を見ているようです。
うっすらと目を開けると、朝日を背に微笑む名無し様のお姿は、まるで天女のように神々しい。
「驚くよね。信長様から、私が三成くんのお世話をするようにと」
「‥‥名無し様が‥‥私の‥‥お世話を?」
何という事でしょうか?
秘かにお慕いしていた名無し様が、私の元へ来て下さるとは。
覚めないで欲しい、心地よい夢。
「三成くんの気持ちを聞かずに来てしまったけれど、迷惑なら遠慮しないで言って」
「迷惑だなんて、そんな事はありません。名無し様がお嫌でなければ‥‥」
「では、今日一日よろしくお願いします」
名無し様は床に指をつき、深々と頭を下げられた。
艶やかな髪がさらりと揺れる。
「こちらこそよろしくお願いいたします」
私も急いで同じように頭を下げる。
「これは‥‥夢ですものね」
「いいえ。夢ではありませんよ」
名無し様はにっこり微笑んだ。
夢では‥‥無い‥‥。
急速に頭が冴えてきました。
やはり忌まわしい私の失態は、現実なのだ‥‥。
私は名無し様にも、誰にも顔向けできない。
俯いて拳をぎゅっと握りしめた。
「‥‥駄目です‥‥!私は‥‥武将失格‥‥。名無し様もご存知でしょう‥‥」
「何を言うの。三成くんは家臣や領民のため、出来る限りの事をしたと聞いてるよ。今回は運が悪かったって」
「結果、多くの被害を出したのです」