第11章 恋慕3−2 花の裁き ヤンデレEND【家康】R18
翌日、朝餉に名無しの姿は無く、体調が優れないから今日は休ませると信長から伝えられた。
「この頃ずっと元気が無いご様子でしたね。家康様、診て差し上げてはいかがでしょうか」
「もう昨日診た。疲れがたまってるみたいだから静養したほうがいい」
心配そうな三成に返事をしてから、手をつけられない名無しのお膳をチラリと見て、家康は昨日の彼女を思い出していた。
名無しを好きだと伝えた時、
『嬉しい‥‥』
そう言ってふんわりと微笑み、家康の胸に寄り添った温もり。
思い出すと甘い感動が蘇り愛おしさが溢れ、いますぐ会って抱きしめたくなる。
彼女の気持ちを確かめる事ができた。
しかし信長と自分との間で相当思い悩ませてしまっており、それは申し訳なく思う。
今も気に病んで寝込んでるのだろう。
いてもたってもいられなくて、仕事の合間を縫って名無しの部屋へ向かった。
手にはこっそり摘んだ一輪の花。
彼女が花を好きなのは知っている。
柄でもないし恥ずかしいけど、名無しに渡そうと思っていた。
部屋に近づくと声が聞こえた。
家康は咄嗟に気配を消して聞き耳をたてる。
「観測結果にワームホールの兆候が確実に現れてる。近日中に発生する筈だ」
(男の声‥‥一体誰だ)
「この近くに?」
「ああ。まるで俺たちを迎えに来るようにね。時期がはっきりしたらまた知らせる」
「お願いします。ねえ、もしこれを逃したら次はだいぶ先になるの?」
「そうだな‥‥。周期は不規則で何とも言えない。また近いうちに発生するかもしれないし、数年先かもしれない。二度と無いかもしれない」
「私‥‥早く去らなきゃいけなくて‥‥もうここにはいられないの!」
名無しの声はかなり切羽詰まっていて、相手の男もたただならぬ様子を感じたようだった。
「…何があったのかはわからないけど任せて。必ず君を無事に連れて帰る」
「佐助くん…本当にありがとう」
男の気配が遠ざかっていく。
(天井から逃げたか‥‥男は恐らく忍び。一体何‥‥?…連れて帰るとか‥‥どういうことだ)
名無しと同じく現代からタイムスリップしてきた佐助。
それを知らない家康にとっては、以前から懇意にしていた男との駆け落ちの相談に思えた。