第10章 恋慕3−1 花の赦し ノーマルEND【家康】
集められた武将達に信長が告げたのは、名無しが姿を消した事だった。
「このような書き置きが残っていた」
故郷に帰る事にした。
安土城の全ての方々に良くしてもらったこと、心から感謝している。
このような形での別れを許して欲しい。
そんな内容がつづられていた。
「確かに名無し様の字ですね」
「名無しの奴、誰にも何も言わずに、本当に出ていったのか‥‥」
「故郷に帰るって、一人で大丈夫なのか?」
三成、政宗、秀吉が困惑の声を漏らす。
「‥‥‥‥」
家康は頭を強く殴られたような衝撃を受けていた。
もちろん表情は崩さない。
「家康、お前はどう思う?」
突然、光秀が何かを探るような眼差しで、家康に水を向けた。
「すぐに探しに行った方がいいと思います。襲われるかもしれないし、そうじゃなくても、あの間抜けが一人で目的地までたどり着けるとは思えない」
「よし、可能な者は捜索にあたれ。俺も行く」
信長が立ち上がった。
「家康、名無しが向かう場所に心当たりはあるか?」
またもや光秀は家康に聞く。
「さあ‥‥。なぜ俺に聞くのですか?」
「別に意味はない」
光秀は目を細めて薄く笑うと部屋を出た。
(知ってるのか?名無しが出ていく原因が俺にある事‥‥)
気にはなったが、すぐに捜索へと向かった。
(名無し‥‥一体どこへ‥‥?)
嫌な想像ばかりが押し寄せる。
山賊に襲われてないか?
崖から足を滑らせてないか?
それから…こんな可能性だって高い。
川や湖に身投げしてないか?
(俺のせいだ。俺が無理矢理名無しを抱いて、悩ませた。その上、心の中まで暴いてしまった‥‥)
痛いくらい強く唇を噛み締めた。
(何を焦る事があったのか‥‥)
後悔の念と深い罪悪感にかられるが、今それを考えてもどうにもならない。
とにかく名無しを見つけなければ‥‥。
馬を走らせ必死に捜索する。