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イケメン戦国 書き散らかした妄想

第2章 五色の夜1【秀吉】



ある夜

屋根裏から忍び込んできた佐助くん。

安土城で暮らす私の様子を定期的に見に来てくれている。

「どう?名無しさん。何か困った事は無い?」

「‥‥‥」

ある…

私は今、困ってる事がある。

どうやらこの時代では普通の事みたい。

現代の感覚とは大きく異なる。

でもこんなこと、友達の佐助くんには絶対に言えないよ‥‥。

「‥‥大丈夫。ありがとう」

私は唇の端を上げて微笑んでみせる。

「そうか。何かあれば遠慮なく言って欲しい。現代人仲間として君の助けになりたい」

佐助くんの目が少しだけ細められた。

いつもポーカーフェイスだけど、これは彼の笑顔だってだんだんわかってきた。

「うん」

いつも心配してくれる優しい現代人友達、佐助くん。

その気持ちが嬉しいしどれだけ心強いか。

でも私の現状、言ったら軽蔑される‥‥。

佐助くんが帰ってからしばらく考え込んでいたけど、意を決して部屋を出た。

土の匂いをたっぷり含んだ夜風が妙に生々しく肌を撫でながら通り抜けていく。

ざわざわと木葉が揺れ、まるでうごめく動物のよう。

見上げた夜空は厚い雲に覆われ、月も星も見えない。

ああ、やっぱり行くのやめようかな、

秀吉さんの部屋‥‥。

秀吉さんは本当に素敵な人。

頼れるお兄ちゃんみたい。


だけど

だから


「おーい、名無し。遅いから迎えに来たぞ。何かあったのか?」

当の本人が爽やかな笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。

わざわざ来てくれちゃった、悪かったな。

「ううん‥‥ごめんね、遅くなって」

「じゃ、行こう」

秀吉さんはごく自然に私の手を取り歩き出す。

包み込んでくれる固くて大きな手のぬくもりに、帰ると言い出せないまま着いた秀吉さんの部屋。

「良く来てくれたな」

秀吉さんは律儀に最初はいつもお茶でもてなしてくれる。

香り高く美味しいお茶。

それから、ちょっとした世間話。

必ず城中や城下での面白い出来事のネタを持っていて、笑わせてくれたりほっこりさせてくれる。

顔が広い秀吉さんらしい。

私の緊張がとけていったタイミングで、次は私の安土城での様子を聞いてくれる。

嬉しかった事を話すと、自分の事のように喜んでくれる。

もともと垂れ気味の目なのに、その目尻をますます下げて満面の優しい笑顔で。
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