第9章 恋慕2 暴かれた心【家康】
部屋で一人、薬の調合をしていた家康。
気配を感じてからタタタッと軽めな足音が近づいてくる。
誰のものかはすぐわかった。
襖が開くと思った通り、立っていたのは名無しで、片手で胸を押さえて肩で息をしながら俯いている。
「何?」
なぜ来たかなんて本当はわかってる。
けれど家康はわざと素っ気なく尋ねてみた。
「はぁっ…わからないの…。私…何だか変…」
名無しの頬は赤く染まり、吐息まじりにやっとそう言った。
「‥‥気付いたら、ここに来てた」
「入れば」
名無しはもつれる足で2、3歩踏み出し部屋に入ると、その場に座り込んだ。
襖を閉めた家康は名無しの横に屈んで顔をのぞきこむ。
名無しの目がどんどん潤み涙が溢れた。
「どうしたの?」
精一杯の優しい声で問う。
「…家康に会いたくて!!あなたが好き!!」
名無しは床に両手をついて、激しく思いを吐き出す。
「そんなの許されないってわかってるのに‥‥ダメなの!あなたの事ばかり考えてしまう!」
(やっぱり名無しも俺の事を…)
大きく上下する華奢な肩に手を置くと、名無しは家康の胸にすがりついた。
その勢いはかなり強く、家康は倒れそうになるのを片手を後ろについて受け止めた。
「名無し‥‥」
自分を強く求め、首に両手を回してぎゅっと抱きつく名無しの姿、それは家康が望んだ通りのものだった。
しっかりと抱きしめ返す。
「ずっと‥‥こうして抱きしめて欲しかった‥‥」
名無しはしゃくり上げながら思いを吐露する。
(ここまで効果あるなんて‥‥自白剤‥‥)
実は彼女の食事に混ぜておいたのだったが、あまりの効き具合に調合した本人も驚いている。
家康は名無しの肩を支えながら歩き、座布団の上に座らせた。
彼女の涙は止まらず、いつもは花のような色をしている唇はすっかり血の気が引いてしまっている。
気の毒なくらいの様子に心配になった。
頬に流れた涙をそっと手拭いで吸い、落ち着かせようと背中を優しくさする。