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イケメン戦国 書き散らかした妄想

第35章 白い夢 プロローグ


天主に呼び出された名無しが信長から告げられたのは、縁談が決まったという話だった。

それはずっと覚悟してきたこと。

だからとうとう自分の番が来たと、

「はい、お受けいたします」

名無しは感情を押さえた声で言って、深々と頭を下げた。

「ただし、相手方から一つ条件を出された」

「何でしょうか?」

頭を上げ真っ直ぐ信長を見据えた名無しだったが、告げられた条件の内容には流石に動揺させられ、ぎゅっと手を握りしめた。

それは名無しが非処女であること。

「処女を相手にするのは面倒、手慣れていて欲しいとの事だ」

「……くっ…何ということを……」

脇で控えていた秀吉から、驚愕と憤りの滲んだ声が上がる。

妻となる女性を何だと思っているのか。

何と非情で冷酷なのだろうかと、同じ男として腹が立って仕方がなく、殴りかかりたい気分だった。

嫁ぐ前からそんな条件を出すような奴では、妹のように可愛がってきた名無しが酷い扱いを受けるのが目に見えている。

「先方はすぐにでも娶りたい、世継ぎを設けたいと言っている。名無し、経験はあるか?」

「いえ、ありません」

動揺をしまい込んだ名無しは淡々と答えた。

「ならば期限内に性のいろはを教わり、経験を済ませろ」

「…はい」

まったく屈辱的な話だし、若い娘にとってあまりに酷な命。

それなのに何の反抗もせずに受け入れる名無しが健気で不憫で、秀吉の胸はチクチクと痛む。

「相手は自分で選べ」

「……!」

「俺が知っている男ならば誰でもいい」

「……誰でも?」

「そうだ」

その瞬間、名無しの目に光が宿ったのを信長は見逃さなかった。

「…誰でもいいのですか!」

「ああ」

頷いた信長に、名無しは珍しく声を張ってさらに食い下がる。

「本当に?本当ですか?たとえ、どのような立場の方でも、ですか?」

おとなしい性格の名無しらしくもない、どこか挑戦的とも取れる態度。

吃驚して見つめる秀吉とは対称的に、信長は脇息にもたれて実に愉しそうに眺めていた。
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