第7章 五色の夜 安土城編 完結【家康】
今までは怖くて怖くてじっと見つめるなんてできなかったな。
「さっきから何見てんの?」
気づかれてた!
「ううんっ‥‥」
日が落ちるまで横にならせてもらい、家康と一緒に夕餉に向かった。
「今日は手伝ってくれて本当にありがとう。それに、気持ちをわかってくれて、嬉しかった」
家康は腕組みして少し考えてから言った。
「状況を変えたいなら、自分から行動起こさないと」
「はい」
途中で光秀さんに会った。
「おや、珍しい組み合わせだ」
「そうですね」
「実に面白い。家康と並ぶとお前の間抜けさが更に際立つな」
「もう!いつも失礼な事ばっかり言って」
光秀さんにからかわれるのも何だか和むな。
やがて広間に武将たちが集まってきた。
「聞いて下さい。名無しが話があるそうです」
ええー! みんなの前で!いきなり?
家康に視線を送ると
「ほら、ちゃんと言いな」
背中を押される。
「何だ何だ?」
「あ、あの‥‥‥‥」
息を一旦吐き、そしてすうっと深く吸い込んだ。
皆が私を見ている。
逃げ出したくなるけど言わなきゃ。今しか無い!
「私、これからは、皆さまと‥‥‥夜を共にしません」
水を打ったように静まり返る。
信長様の眉毛がぴくりと動く。
沈黙に心が折れそうになるけど、ここまで言っちゃったからには続けよう。
「私のいた故郷では、体を合わせるのはお互いに深く思いを通わせた、たった一人の相愛の相手とだけ……。そして他の人とはしない‥‥。私もそうしたいんです」
家康は一番後ろで見守ってくれてる。
「皆さまが私に優しくしてくれて、仲間だといってくれて、本当に感謝してる。恩を返したいっていつも思っています。ただ、夜の事に関しては私と、皆さまの価値観が違う‥‥んです」
どう言えば伝わるのだろう。
「上手く言えないんだけど、私は皆さまが大切なんです。それはわかってほしくて」
「よかろう。夜伽が無くとも貴様は幸運を呼ぶ使命がある」
やっと言葉を吐き出した私に最初に声をかけてくれたのは信長様だった。
「わかった。お前は故郷を大事にしてるからな。それならばその考えに従った方がいい」
続いて政宗も力強く言ってくれた。
「信長様、政宗、ありがとうございます!」