第32章 歪んだ愛で抱かれる 中編
「一番安全な信長様の元に託す」
「でも…」
「そのときに俺、信長様に話すよ。今までのこと全部。そして心から罰を受け入れる…。そう決めたらね、心がスッキリしたんだ」
蘭丸はふっと唇の端を上げた。
「……」
「ま、正直怖いけどね…」
「私も、私も言うよ!蘭丸くんは本当に苦しんでることを伝える。そしたらきっと、信長様はわかってくださる」
「……ありがとう…名無し様。それじゃあ、明日出発しよう。今日はゆっくり休んで」
色々ありすぎて数日間ろくに眠れていなかった名無し。
さすがに体力の限界で、布団に入るとすぐに深い眠りに落ちていった。
その横で、蘭丸は膝を抱えて座っていた。
常に警戒して意識を外へ向けつつも、名無しの安らかな寝顔に見入る。
「名無し様はやっぱり優しいな。ああやって言えば一緒に信長様のところへ来てくれるって、思ったとおりだったね…」
蘭丸の決意
――それは信長にすべてを話して罰を受け入れるのではなく、正体を明かして勝負を挑み、そして…
「俺は顕如様を絶対に裏切れない。彼の命令には背けない。だから、こうするしかないんだよ」
信長に討たれて死ぬつもりだった。
「それから、本当はね、三成様のところに行かせないのは心配はもちろんだけど、一番はただの嫉妬。彼には渡したくないだけ。たとえ俺が死んでも…ね。好きだよ、名無し様」
その言葉は、こんこんと深い眠りの中にいる彼女に届くはずもない。
「すきだよ…心から…」
もう一度零れたその言葉も行くあてはなくて、夜の空気の中で宙ぶらりんになり、ふわふわと彷徨い続ける。
翌日の早朝
この場所は早くも三成に見つかり、襲撃を受ける。
蘭丸の奮闘むなしく、名無しは三成の手に堕ちた。
中編 終