第7章 五色の夜 安土城編 完結【家康】
次第に部屋に射し込む朝日の光量が増えてきた。
行かなきゃ
重い腰を上げて顔を洗った。
鏡をのぞきこむと映っていたのは酷い顔。
顔色が悪くてクマが目立つ。
それを見られたくなくて、心配かけたくなくて、白粉や紅で調整する。
手間取って時間がかかりようやく廊下に出ると、眩しい朝日が寝不足の腫れた目に染みた。
朝餉に向かう途中、三成君に呼び止められた。
「名無し様、おはようございます」
「お、おはようございます…」
ああ…何だか顔を見れない…。
「あの…昨日はありがとうございました」
「…はい…」
「そして、すみませんでした。その…途中…名無し様の肌に強く口づけてしまい…痛かったですよね…」
「…あ…いえ…だ、大丈夫です」
私はひたすら恥ずかしいし、いたたまれなかったけど、三成君はすごく真剣だった。
「あの時、名無し様の胸元に既に赤い痕があったのを見て…心臓をぎゅっと掴まれたような嫌な心地になり……衝動的にあのような事をしてしまいました…」
「え…」
「名無し様はこんなにも魅力的だから、他の方々からお誘いがあるのでしょう。だけどそれが…苦しくて」
三成君は言いながら私の手をとった。
「……私は…」
その時、
「三成、名無し、何やってんの?みんなとっくに膳について待ってるんだけど」
苛立った感じの家康さんの声が遮った。
ぱっと私は手を引いた。
「すみませんでした。名無し様、参りましょう」
「…はい」
家康さんは不機嫌な表情。
ふいっと踵を返して行ってしまった。
やっぱり嫌われてるな。
また心が重くなる。
そして、いつものように朝餉が始まった。
今日私に与えられた仕事は各武将宛の書簡を配る事。
頑張ろう
没頭すれば余計な事を考えずに済む。
気合いを入れたその時、背後から声をかけられた。
「あんた、大丈夫?」
それは家康さんだった。
「は、はい‥‥。大丈夫です!」
私、また変に目についちゃったかな。
もう逃げよう。
「では、行ってきます!」
「待って、顔色悪くない?」
お化粧で頑張って隠したのにバレちゃった?
「すっ、すみませんっ!」
「何で謝るの。貸して」
「何を?」
「それ」