第26章 五色の夜 春日山城編1 【兼続】
タイムスリップして2ヶ月。
色々あって私は春日山城でお世話になっている。
現代人仲間の佐助くんの口利きのおかげで、私は表向きはどこぞの姫ということに。
未来から来た何かと言動がおかしいはずの私に、武将たちはとても良くしてくれた。
女嫌いの謙信さまの前では緊張してガチガチになってしまうけど、最初よりは受け入れてくださってる、かな?
平和な現代と180度違う戦乱の時代。
ここにいさせてもらってなければ、とっくに野たれ死んでた‥‥。
毎日感謝の気持ちを噛みしめてる。
何かお礼がしたくて掃除をしたり、炊事を手伝ったり。
佐助くんや武将たちと一緒に過ごして食事して話をして、充実した日々になってきた。
今のところワームホール発生の兆候は見られないそうで、帰れる目途はない。
だから各国の情勢や戦況や上杉武田軍のおかれている状況を理解し、この乱世で生きていく術を学ぶようにと信玄さまの勧めで最近は軍議にも出ている。
それが何しろ難しくて、まったくついていけない。
戦術の解説書を借りてきて読んでみたものの…
「…無理…」
「どうした名無し、眉間にシワ寄せて。だが、そんな顔も可愛いとは驚きだな」
ため息をついた私に声をかけてくれたのは信玄さま。
いつも神々しいほどにカッコいい。
お世辞だとわかってる褒め言葉もあまりにナチュラルで、思わず私は笑顔になる。
「せっかく軍議に出させていただいたのに理解できなくて。勉強してるんですが難しいですね」
「最初はわからなくて当然なのに君は偉いな。それなら兼続に聞くといい。あいつは指折りの軍師だが、教えに長けた講師でもあるんだ」
信玄さまにお礼を言って、直江兼続さんの顔を思い浮かべた。
知性みなぎる鋭くて冷たい美貌。
あの人に教えてもらう…?
怖…。
だけど、一人で勉強しても埒があかない。
確かに教えてもらった方がいい。
せっかく信玄さまが与えてくれた学びの機会を無駄にできない。
それから私は、忙しそうな兼続さんに指南をお願いするタイミングを伺った。
今だ、声をかけよう!と思っても、他の人に先を越されたり、やっぱり怖くて躊躇してしまったり。