第5章 五色の夜 安土城編4 【光秀】
「‥‥」
「まだ震えているな。今日、お前を呼び出したのは、雷で怖がる様子を存分に楽しむためだ。今、俺は非常に楽しいぞ」
「‥‥!!」
「雲行きから嵐を予想したが、当たったな」
「た、楽しむって…」
その時、また稲光が射し込んだ。
すかさず光秀さんの私を抱きしめる腕にぎゅっと力がこめられる。
それから雷鳴が轟いたけれど、体に回された腕の力強さと、背中から包まれる温もりに私の悲鳴は漏れなかった。
「あっ‥‥」
「今のは怖くなかったか?」
振り向くと光秀さんの微笑が
いつもより…優しく見えた。
「‥‥‥‥」
どぎまぎして私はうつむく。
「今夜は一人では過ごせまい」
「‥‥‥‥もしかして、光秀さんは」
私の問いを遮るように稲光と雷鳴が轟く。
「きゃっ‥‥」
まるで守るように、光秀さんの大きな手が私の頭を抱える。
光秀さん、雷雨から私を安心させる為に呼び出したの?
聞いたらきっと否定される。
でも今、この温もりは確かに私を守ってくれている。
考えるのを止めて、目を閉じて包まれる安心感に身を委ねた。
雨の音ももう怖くなかった。
その後に何度か響いた雷鳴も、もう大丈夫だった。
温かい。
ああ…何だか眠くなってきた‥‥。
「光秀さん‥‥」
「ん?」
「ありがとう‥‥」
私はとろとろと微睡みに落ちていった。