第1章 大福顔【家康】
ーーーー軍議中
緊迫した空気をビリビリと肌で感じる。
武将たちと同席した名無しは必死についていこうと眉を寄せ、きゅっと唇を噛みしめ、身を強ばらせながら聞いていた。
その時、
「‥‥‥‥‥‥ぶっ!‥‥‥‥‥‥」
音のした方に目をやる。
‥‥‥‥‥‥それは家康だった。
(家康?‥‥‥‥今、噴き出した?)
「‥‥ぐっふっ‥‥ゲホッ!ゲホッ!」
次の瞬間、家康は顔を赤くしながら咳こんだ。
「家康、大丈夫?」
(むせてたのか、そうだよね。こんな時に笑うわけないか)
そっと駆け寄り背中をさする名無し。
心配して家康の顔を覗き込み、
目が合ったその瞬間、
「‥‥ぶっ!‥‥‥‥ゲッ!‥‥ゲホッゲホッ!‥‥失礼!」
再びむせて、家康は手拭いで口を覆いながら広間を後にした。
「珍しく風邪でも引いたか?」
秀吉がぽつりと呟く。
名無しは小さく首を傾げた。
しばらくして戻ってきた家康。
名無しは気になって様子を伺っていたが、家康は不自然な位に名無しの方を見ようとしなかった。
ーーーー軍議終了後
さっさと立ち去ろうとする家康の背中に名無しは声をかけた。
「家康、大丈夫?体調悪いの?」
家康はぴたりと足を止めた。
「‥‥…いや‥‥‥‥」
振り返らない。
「‥‥?どうしてこっち見てくれないの?」
名無しは前に回り込んで、顔を覗き込む。
翡翠色の瞳と目が合った。
「‥‥‥‥‥‥ぶっ!‥‥」
(まただ!)
家康は突然逃げ出した。
「ま、待って!」
追いかける名無し。
「ん?家康は風邪じゃないのか?元気そうだな」
「おいかけっこ‥‥でしょうか」
秀吉と三成は顔を見合わせる。
名無しは家康の御殿まで追いかけた。