第19章 託された花2 【家康】
「‥‥」
「それに、貴方は俺が知る武将の中で最も辛抱強い御方だ。この名無しさんの強い色香にも動じないかと」
「‥‥」
家康の手がぴたりと止まった。
「更に腕も立つ。謙信様の寵姫として狙われないとも限らない。聡明で冷静沈着、かつ強い貴方しか、名無しさんを色んな意味で守れないと思いました」
「…何それ…身勝手…相当迷惑」
家康はふいっと目をそらした。
「すみません!ですが貴方にしか託せないのです」
佐助は畳に手をつき頭を深く下げ懇願した。
「好戦的な信長様、政宗さんではこの状況を怒って戦になりかねない。それに…割と…好色的に見受けられるので…名無しさんを託すのは心配で」
「まあ……ね」
「秀吉さんも大事な妹分がこんな目に遭わされたとなっては我を忘れそう」
「三成は論外だね」
「いや…論外…という訳では無いのですが、彼はドジっ子属性があるので、今の名無しさんのお世話は出来なそうで」
「ああ、もうわかったよ。ここで秘密裏に預かる」
「ありがとうございます!このご恩は必ず」
「そういうのいいから」
「それでは俺は戻ります。気になる事があるので」
佐助が帰ってから、家康は女中に準備の品を指示して揃えさせ、人払いをする。
そして傷の確認のため、名無しの着物を脱がせた。
「く‥‥」
名無しの裸体は妖しいほど美しい。
透けるような色の肌となめらかな曲線。
更に桃のような甘い芳香が漂う。
佐助は家康なら動じないと思っていたようだが、決してそうではなかった。
一人の男、間違いを犯す可能性は無いとは言えない。
(そんな聖人君子じゃないし…)
なぜ佐助がそこまで買いかぶるのかは解せなかったが、名無しを託されたのが自分で良かったと思う。
これが他の武将だったら……
心配だし、単純に嫌だった。
息をすぅっと吸い込み、それから細くゆっくりと吐き出す。
ごちゃごちゃ頭に渦巻く雑念を振り払おうと念じてから、清潔な手拭いを濡らし名無しの体をそっと拭く。