第18章 託された花1 【謙信】R18
帰ってきた幸村に佐助が事の経緯を説明していると、謙信が名無しを両腕に抱えて歩いてきた。
名無しは顔面蒼白。
意識が無い様子で手足はダラリと力無く垂れ揺れている。
話し合う、そう言ってた名無しだったが、それが叶わなかったのは一目瞭然。
由々しき事態に驚愕した二人は駆け寄り、立ち塞がった。
「名無しさんはどうしたんですか?」
「そこをどけ、これから牢に閉じ込める。二度と出さん」
「‥‥」
名無しは適当に着せかけられた襦袢一枚の姿。
裾はめくれ、意外にむっちりとした艶めかしい太腿が露わになっている。
胸元も広く開いており、白い肌には赤い痕がいくつも散っていた。
(まずい‥‥目に毒だ‥‥)
「‥‥名無しさん、大丈夫ですか?こんなに真っ青で、相当無理させたんでしょう?今すぐ医者に診せましょう」
「この近辺の医者は男しかいない。今の名無しを診せられる筈がないだろう」
「だからって‥‥このまま閉じ込めたら死ぬだろうが‥‥!」
佐助と幸村の言葉は謙信には全く響かない。
「俺が名無しを死なせるわけがないだろう。何かあっても気力で治してみせる」
(ダメだこりゃ‥‥)
佐助と幸村はちらりと互いに目配せする。
次の瞬間、佐助が懐から取り出した煙玉を投げつけた。
噴き出した白い煙に包まれる中、佐助は隙をついて名無しを奪い取り、幸村は謙信を羽交い締めにした。
「命の危険があるので名無しさんを貴方の元へおけません。しばらく預かるから頭を冷やしてください」
「何だと!ふざけるな!離せ!」
煙幕の中で暴れる謙信を幸村は必死に押さえる。
「佐助、行け!」
「わかった!」
佐助は名無しを馬に乗せて走り去った。
とにかく一刻も早く、謙信の手の届かない安全な場所へ。
長い距離の移動中、ずっと意識を取り戻さない彼女が心配で、身体をくるんだ布の上からきゅっと力をこめて存在を確かめる。
名無しを託せる人………
佐助が頭に思い浮かべていたのはあの人だった。