第4章 五色の夜 安土城編3 【政宗】R18
しん、と静まりかえった夜だった。
夜空を見上げると、雲がするりと滑らかに流れ、月や星を隠したり現したりしている。
廊下の隅では三成くんの猫さんが丸まって眠っていた。
呼吸と共に規則正しく上下する猫さんの柔らかそうなお腹。
小さな可愛い命がすやすや眠るのを、そっと見守るような穏やかで優しい夜。
ああ‥‥だけど、私の心は浮かない。
政宗に話してみよう、私の気持ち。
夜を共にするのは恋仲の人だけにしたいって。
そう決意して政宗の部屋に入ると、いきなり出鼻をくじかれた。
「名無し!とうとうできたぞ!」
政宗が手にしていたのは舶来の美しい硝子の器に盛られた、白くてころんと丸い見た目にもふわふわしたお菓子。
「こ‥‥これは‥‥マシュマロ‥‥」
私は目を見張った。
戦国でこれを見る日が来るなんて‥‥!
「名無しが言ってた好きな菓子は、こんな感じか?」
オムライスに続き、未来の料理を再現してくれたんだ!
「うん!まさにそう。感動する‥‥!ねえ、食べてもいい?」
「もちろんだ!」
「うん!これこれ!本物より弾力があるけど、口にいれるとしゅわっととける感じ、すごく上手にできてる!」
「砂糖と葛粉と水を入れた鍋を火にかけて、卵の白身を茶筅で泡立てたものを混ぜる。しきつめた片栗粉を丸く凹ませた中に流し込んだ」
「私の話を聞いただけで、ここまでのクオリティの物を作れるなんて‥」
「氷‥‥邸?なんだ?」
「政宗は料理の天才だね」
「まあな」
政宗は白い歯を見せ、心底嬉しそうににかっと笑う。
「あーすごく嬉しいよ。もっと食べてもいい?」
「当たり前だ、お前の為に作ったからな」
喜んで味わう私の顔を、政宗は満足げに眺めていた。
今夜、私を呼び出したのはこの為なのかな?
「この菓子‥‥お前に似てるな」
「え?どこが?」
「こことか」
「!!」
突然、両頬をむにゅっと引っ張られた。
「何すんのー」
「おーおー旨そうだ」
もう!
政宗は楽しそうにカラカラ笑ってる。
完全にからかわれてる。
艶っぽい雰囲気は一切無い。
私が勝手に勘違いしてたのかな、そういう事をされるって。
やらしいな私、何だか恥ずかしくなってきた。
「ごちそうさま、じゃあそろそろ私は帰るね」
立ち上がって政宗に背を向けた。