第16章 君の誕生日2−1 【佐助】ノーマルEND
佐助くんは襖に手をかける。
「止めないでくれ、名無しさん」
「もうっ!!お願いだから!!こっちを見てっ!!」
グイッ!
渾身の力を込めて佐助くんの腕を引っ張ると、彼はバランスを崩して布団に倒れ込んだ。
その勢いで外れた眼鏡が布団の上に飛んでいく。
それがなぜかスローに見えた。
「名無しさん…意外と力強い…」
茫然自失、といった様子の彼の両肩をがしっと掴み、上半身を起こさせる。
その勢いにぐわーんと揺れた顔を覗き込むと、眼鏡の無い彼はクールなイケメン。
表情は依然として変わらないけど、明らかに目が泳いで動揺してる。
一連の佐助くんの行動にビックリしつつも、愛おしく思った。
澄み切った瞳は、彼の純粋な心の中そのものを表しているよう。
それを真っ直ぐ見つめながら……私も言おう。
「斬られたらやだよ。私も、佐助くんが好き」
「え?」
「タイムスリップだなんて、信じられないことが起きてしまったけど、佐助くんが一緒で本当に幸運だったっていつも思ってる。宝くじに当たったくらい、ううん、もっと運がいいよ、私」
「名無しさん…」
「優しくて、頼りになって、佐助くんの存在がどれほど心強かったか。ずっと見てたらそのポーカーフェイスの奥の表情もわかるようになってきたよ。あなたが好き」
「ありがとう…名無しさん…今…最高の気分…」
佐助くんの表情筋はやっぱり動かないけど、少し顔が赤く染まっていた。
「…あの、名無しさん、ごめん。…眼鏡を取って欲しい…天にも昇る心地なのに何も見えないんだ」
「あ、そうだよね、はいどうぞ」
布団の上に落ちたので眼鏡が壊れたりせずに良かった。
「今日は、私を癒やしてくれてありがとう。そして告白も」
「本当はもっとムードある告白をしたかったんだ。完全にしくじったのに、こちらこそ本当にありがとう。君の誕生日なのに俺の方がプレゼントを貰ったみたいだ」
佐助くんは眼鏡をずらして袖口で目をゴシゴシこすった。
泣いてたの…?