第15章 君の誕生日1 【佐助】
「きれい…」
しんしんと降る雪に白く美しく化粧を施されていく庭の景色。
湯浴み後の私は、それを楽しみながら部屋まで歩いていた。
吐く息も白い。
ふと、この雪の美しさですべてが白く染められたらいいのにな、と思った。
暴力、支配、略奪を好み混沌とした世を望む悪人の心も浄化されたらいいのに…なんて憂いてみたり。
それほどに美しく心の琴線に触れる景色だった。
今日のお湯はかなり熱かったから、まるで茹でられてきたみたい。
澄み切った冷気が火照った肌を鎮めてくれる。
何て心地良いんだろう…。
部屋に入った私はふぅ、とひと息ついた。
今夜は楽しかったな、私の誕生日祝いの宴。
春日山城へ来て1ヶ月。
後世に名を残す武将たちと暮らすなんて、最初はどうなる事かと思った。
信玄様と義元さんは最初から優しく接してくれて、どれだけ救われたか。
ぶっきらぼうで口が悪いと思ってた幸村は、実はとても親切だってわかってきた。
そして、女嫌いでいつ斬られるかとビクビクして近づけなかった謙信様とも、同じ部屋でお酒を飲める位に慣れてきたし、今日の私の誕生日祝いの席にも来てくれた。
それもこれも、現代人仲間の佐助くんが何かとフォローしてくれたおかげ。
今日の宴も彼が企画してくれたらしい。
私は途中でお礼を言って抜けたけど、まだ皆はお酒を飲んで盛り上がってるんだろうな。
夜着に着替え髪を梳かし、幸せな気持ちで布団に入った時、カタッと音がして天井裏が開いた。
「こんばんは、名無しさん」
「佐助くん!さっきぶり。ていうか、ここは安土城じゃないし普通に入って来たらいいのに」
「それもそうだ。忍者の習性でつい」
佐助くんは軽い身のこなしで部屋に降り立つ。
完璧な忍者ぶり。
とても現代人とは思えない。
適応力や身体能力の高さにいつも感心する。
「君に誕生日プレゼントを渡したくて」
「わざわざ用意してくれたの?今日の宴だけでも充分なのに気を遣ってもらって」
「いや、大したものじゃないんだ。はい、どうぞ。そして、あらためてお誕生日おめでとう」
彼が取り出したのは手のひら位の大きさの軟膏壺だった。