第12章 *File.12*(R18)
「それは俺の役目だ」
「ケチケチすんなよ」
「雪乃は俺のだと、最初に言ったはずだ」
「もう忘れちまったなー」
「この歳で健忘症か?」
「何だと?」
「……?」
俺を睨む松田から視線を外し、身動き一つせずに腕の中で固まっているらしい雪乃を覗き込む。
「もう泣き止んでるって」
「さすがに頭上でそんな話をされたら、イヤでも涙も止まるってモンだろ」
「「雪乃?」」
「!」
松田と声が重なると、するりと抜け出した行き先は、景光の背中。
上着を握り締め、顔を埋めている。
腕の中、ではないだけ安心した。
「こりゃ、一本取られたな」
「役得だねー、お兄ちゃん?」
「オ、オレ?」
班長と萩は楽しげに笑い、後ろを振り返りながら背中に隠れた妹の行動に驚く景光。
当然、俺はムカッとするし、松田は目を点にしている。
「お前の居るべき場所はそこじゃない」
雪乃に向かって、手を伸ばす。
「!」
伸ばしたのは、利き手ではない。
言葉にしなくても、意味は分かるだろう?
「来い、雪乃」
「!」
名を呼べば、雪乃の視線が俺の左手から真っ直ぐに目を見つめ返す。
「ゼロ」
次の瞬間、ふわりと微笑みながら左手で掴まれた指先を握り返すと、再び自分の方へ引き寄せた。
「ドラマを素でやってみせるトコが、ゼロ」
「確かに」
「違和感がねえ」
「何時何処にいても、お前ら二人だけは変わらずお似合いだ」
「それはどうも」
「意外と独占欲強いからな、ゼロは」
ニコニコしながら、どの口が言うんだ?
景光お前、そもそも自分の所為だとは、微塵にも思ってないだろう?
「何か困ることでも?」
腹は立つけど、景光の言葉を肯定したまま、雪乃に問い掛ける。
「嬉しい。けど、恥ずかしい」
「……」
直ぐ近い場所で合っていた視線が、すっと逸らされた。
白い頬を赤らめ、俯く。
可愛すぎる。