第1章 *File.1*
「で、その後のセリフが、『よくそんなので公安やってるわね!一からゼロに鍛え直してもらいなさい!』だよ」
「それも刑事部と敵対してる、初対面の公安相手に」
「思わず言っちゃたのよ。もちろん風見は呆然としてたけど」
って言うか、仮にも一つ年上の公安の警官を呼び捨てなのか(笑)
そう。
彼女は知っていたから。
陰から景光や風見、俺に見守られていたこと。
スマホ画面にアプリが残らないGPSが、搭載されていたことも。
あえて消さなかったのは、俺と景光の安否を確認するためだった。
まさか逆手にとって、そのアプリに外部からの接触があった場合に、自動的に通知が来るようになっていたとは。
雪乃のスマホにそのシステムを施したのは、間違いなく、阿笠博士か宮野志保だ。
では、一体誰が?
「あのとんでもないシステムの発案者は、工藤君なのか?」
「それは私。連絡したくてもこちらからは出来なかったし、何時もどんな時も二人の安否が知りたくて。相談した志保には、『貴女なんてことを考えつくの!無茶言わないで!』ってこっぴどく怒られた」
飲み干したコーヒーカップをテーブルに戻すと、その時の状況を思い出したのか、ムッと唇を尖らせた。
「……」
まさか雪乃、キミ本人だったとは。
ホント想定外だよ。
「ゴメン」
「それから、有難う」
「私の方こそゴメンなさい。それから有難う」
景光が謝罪し、俺が感謝を述べれば、雪乃は俺達に頭を下げた。
「「「……」」」
結局のトコロ、昔から俺たちは、
「「「似た者同士。だな(だね)」」」
オレンジ色の夕暮れに染まる喫茶ポアロに、何年かぶりに三人の心地よい笑い声が響き渡った。
それは俺たちにとって、一生の宝物のような大切なひととき。
そうだ。
大切なことを、まだ二人に伝えてなかった。
今日中でなければ、意味がないだろう?
「Happy birthday!景光&雪乃」
「サンキュ、ゼロ」
「ゼロ、有難う」
誕生日のプレゼントは毎年、風見を通して雪乃に渡してもらってはいたけど、数年ぶりに三人揃った、双子の誕生日。
この件に関しては、景光には感謝しかない。