第1章 *File.1*
「何も言わないまま、今年もまた一年を終わるつもりだったのか?」
「…迷ってたよ。ずっとな」
そう。
雪乃を迎えに行くか、どうかを。
毎年。
日々事件と時間に追われる中、愛する人をこの手で幸せに出来るのか、護りきれるのかを、ずっと悩んでいた。
「待ってて、良かった?」
「さっきも言ったはずだ。雪乃だけは、俺以外の誰にも渡さない」
「…有難う」
カウンター越しに手を伸ばし、ポンポンと髪を撫でると嬉しそうに笑う。
逆に言えば、雪乃の存在は、俺にとって最大の弱点にもなる。
だから、途轍もなく恐ろしくもあった。
喪いたくない大切な人を、既に何人も喪っているから、俺たちは。
だが、それさえもこの双子には言葉にしなくても伝わっている。
俺にとってそれは安心感でもあり、甘えでもあった。
「…あれ?」
「どうした?」
「此処ってポアロ。だよね?」
「いかにも」
何かをふと思い出したかのように、手にしかけていたコーヒーカップから指を放すと、俺の顔をじっと見つめてきた。
何だ?
「もしかしなくても」
「「?」」
話の続きが予想出来ず、景光と顔を見合わせる。
「刑事さん達にも人気がある喫茶ポアロで、JKから超絶な人気がある、安室透って…」
「あー、それはゼロ」
「……そんな目で見ないでくれ」
あからさまに面白がる景光に対し、じとっと恨みがましい視線を向ける雪乃。
「私、此処に来るのは、今日が最初で最後になるわね」
「何故?」
「「JKが怖いから」」
こういう時だけ双子らしく、シンクロするな!
「ただの知人のフリなんて、絶対出来ない!」
「俺は嬉しいけど」
「ムリムリ。ぜっーたいムリ!」
めいっぱい掌を左右に振って、断固言い切る。
「そこらのJKより、雪乃の方がよっぽどJKらしいのに」
「全くだ」
「二人して、全然っ褒めてないでしょ!」
「そういえば…」
俺も思い出した。
「うん?」
「風見が褒めてたな。彼女は一体何者ですか?って」
「Answer、警視庁に勤務するただの一刑事です。あの時は陰に隠れてた風見に助けてもらってピンチを脱したのに、結局ツメが甘いから私が拳銃ぶっ放して、風見を助けるハメになったのよね」