第23章 *File.23*
「お、おい。あれって…」
「諸伏さん、か?」
「かっ、彼女?」
「すっげー可愛くねえか?」
「どうかしたのか?」
「風見さん、あれ」
「!!」
何て間の悪い。
どうしてあの二人が、今此処に?
「今のは見なかったことにし…」
「何をだ?」
「!!」
ああ、絶体絶命だ!
背後からの上司の声に、嫌でもビクリと震えた。
「降谷さん、アレって…」
「あれ?」
「諸伏さん、ですよね?」
部下の視線の先には、大通りにある人気らしいカフェの列に並ぶ、傍から見れば、ごく普通の仲が良い男女。
二人共、童顔ではあるが、美男美女には変わりない。
「……」
一点を見つめたまま、ピタリと動きが止まった上司から、ゴゴゴッと地響きが聞こえるのは幻聴か?
ああ、誰かそうだと言って…。
「!!」
怖いもの見たさにチラリと上司に視線を移したのが、間違いだった。
眼鏡越しに、ゆらりと彼を包み込む黒いオーラが見えるのは幻覚だと信じたい。
「ふ、降谷さん?」
「どうかしたんですか?」
「諸伏さんの彼女って、超可愛くないですか?」
「あー、降谷さんの好きなタイプではない、とか?」
「それとも可愛い系より、美人系の方がお好きですか?」
「!」
これ以上の刺激は止めてくれ!
そもそも女性の好みをどうこう言う前に、降谷さんは既婚者だ!
「…違う」
珍しくボソリと吐き出された口調が、今の心境を物語っている。
「何がですか?」
「えっ?あんなに仲がよさそうなのに、まさか諸伏さんの彼女じゃない、とか?」
お前達、若さ故なのは分かるが、頼むからもう黙ってくれ!
「ん?あれ?よく見たら、何処かで見た事があるような…」
「そう言われてみれば…」
仕事中は一つに束ねている長い髪を今は下ろしているから、雰囲気と表情がまるで別人だ。
「彼女は警視庁捜査一課の刑事だ」
「って、確か今はお嬢って呼ばれてる、捜一の初代マドンナ?」
「旧姓望月雪乃。今は降谷雪乃だ」
「ふ、降谷っ?!」
「正真正銘、彼女は降谷さんの奥さんだ」
「「えーっ?!」」
「まっ、マジですか?!」
「あっ、あの人が噂の?!」
と、驚いた部下達が顔を見合わせて声を上げた時には既に、上司の姿は此処にない。