第18章 *File.18*(R18)
「どうしました?」
『今何処?』
「まだポアロです」
『じゃ、今から行く』
「貴女の方こそ、今何処にいるんです?」
『今駅降りたから、帰るの待ってて』
「駅?」
『じゃ、そういうことで』
「ちょ、ちょっと!」
そこでブツと音を立てて一方的に通話が切れてしまったので、思わずスマホを耳元から離して眺めてしまった。
それに、スマホ越しに聞こえた声が普段とは違い、抑揚がなかったのも気になる。
また、何かトラブったのか?
「ふふっ。貴方の自慢の仔猫ちゃんに会えるみたいね」
「是非、その前に帰って下さい」
「それは出来ない相談よ。仔猫ちゃんに貴方と私の関係を誤解されるから、かしら?」
閉店後のポアロで一人優雅に長い足を組んで座り、クスッと楽しげに口許に笑みを浮かべる。
「まさか。それは有り得ませんよ」
駅、と言うことは。
警視庁から?
ハロは?
「あら、どうして?」
「今の電話の相手は、僕の妻ですから」
今はもう恋人という立場じゃない。
それに雪乃は、貴女のことを知っている。
あの組織の全容も。
「妻?バーボン貴方まさか、本当に結婚したの?」
何時もは涼し気な目が、大きく見開かれた。
「はい、つい先日。貴女方のお陰で、随分と待たせる羽目になりましたけどね」
「よく隠し通せたわね?」
「結婚するほど大切な人だからこそ、貴女方から徹底的に隠し通し、護り抜いたんですよ」
景光と風見の協力を得て。
あのお転婆娘を。
雪乃は人一倍聡い上に、直感が働く。
だからこそ、自ら動かずに待っていてくれた。
自分が探りを入れれば、自分の身に、俺と景光の身に危険が及ぶことを察知し、そう判断をしたから。
「仔猫ちゃんとは、付き合いが長いってこと?」
「ええ」
初対面は小学校一年生。
あの頃の、幼い二人が懐かしいな。
「その指輪はダミーじゃなかったって、わけね」
直ぐに気付いたようだったが、お互いに指輪に関しては触れなかった。
「残念ながら、正真正銘本物です」
左手の薬指に、まだ真新しく光り輝く結婚指輪。