第13章 *File.13*
「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」
「「……」」
無言で頷くのは、明らかに、見るからに刑事が職業の二人。
スーツ姿に、刑事独特の堅苦しく気難しい雰囲気を身にまとい、俺を見定めるような鋭い視線。
一昨日から左手の薬指にしている、雪乃の結婚指輪を見たのだろう。
二人の視線が俺の左手に集中しているのは、捜一を代表して、この二人が俺の様子を見に来た。
と、言うことか。
「ご注文がお決まりになりましたら、お声掛け下さい」
本来の降谷零はキレイサッパリ脱ぎ捨てて、今は此処に居るべき安室透になりきる。
表情も口調も穏やかな雰囲気も何も変わりなく、何時も通りのポアロの店員に。
「ホットコーヒーは、食後にお持ちいたしましょうか?」
「…ああ」
「畏まりました」
口にも態度にも一切出しはしないが、俺は彼らの名前も所属も階級も知っている。
雪乃が捜査一課に配属された、その時から。
まあ、でも一言ぐらい言わせてもらおうか?
立場上、当面の間は、恐らく本職で会うことはないだろうし、此処で会うことも後僅かだ。
「有難うございました。それから…」
預かったお札を開いたレジに入れお釣りを手渡すと、引き出しを閉めてから二人へ真っ直ぐと視線を向ける。
「「?」」
「何時も妻が大変お世話になっております。これからも宜しくお願いいたします」
声のボリュームを落として、一言添える。
安室透の笑みをのせて、頭を下げた。
「「!?」」
当然、二人は大きく見開いた目を合わせて、口をパクパクさせる。
「これでも探偵をしているもので、驚かせてしまったのなら、すみません」
「い、いや…」
「あ、ああ」
「またいらしてくださいね。お待ちしております」
笑顔で見送ると、顔を見合わせた二人は物言いたげに驚きの表情を隠さないまま、ポアロを後にした。
「お知り合い、ですか?」
「雪乃の、ね」
「雪乃さんの?ってことは、あのお二人は刑事さんなんですか?」
どうやらあの二人は、梓さんが見覚えのない刑事だったらしい。
「あれじゃ、普通のサラリーマンには見えませんよね」
「あれ?」
「だって二人とも、顰めっ面で人相がよくないでしょう?」
「あー、確かに」
梓さんは腕を組んだまま、納得したように深く頷く。