第5章 愛の月読【うちはイタチ中編】
溢れ落ちそうなぐらいの大きな月。
満月の夜だった。
母と食卓を囲んでいると、突然、外で物音がした。
「なにかな」
「誰かいるのかしら」
「私見てくるね」
椅子を引いて、廊下へ出る。
肌を刺す隙間風に、ぶるっと身震いをした。
少し警戒しながら外に視線をやれば、ゴミ箱が倒れていた。動物か何かだろうか。ほっと胸をなでおろし、食卓へ向かおうと小走りで廊下を駆ける。
「母さん、ゴミ箱が転がって…」
そこまで言って、言葉を失った。
「イタチ…?」
目の前で倒れている母に視線を送り、交互にイタチを見る。一体何が起きているのか分からなかった。
「ねぇイタチどういうこと?」
何も言わないイタチに、色んな感情が込み上げて、涙となって頰を伝う。
「…これがイタチの信じた選択なの?」
「……」
「何か言ってよ!!」
お願いだから、何か言って。
唇を噛み締め、イタチに視線をやる。
「そうだ」
「……」
ああ、そうなのか。これがイタチの選んだ道なのか。不思議と裏切られた気はしなかった。忍の世界には、犠牲は必要だ。たまたまそれがうちは一族だったのだ。
私に会いに来たあの日の夜を思い出す。
イタチのことだから、たくさん悩んだんだろうな。その結果がこれなのだ。きっと最善の選択肢だったんだろう。
これ以上イタチには抱え込んでほしくなかったのに、結局彼は全て一人で背負って、私は何も支えてあげられなかった。
イタチは本当に優しいから、一族を殺めた後も、罪悪感と共に生き続けるのかと思うと、やるせなかった。
最後に少しだけ。彼の心を少しでも軽くさせるために、私は一体何が出来るのだろうか。