第1章 始まりは唐突に【はたけカカシ】
「カカシぃい!」
涙でぐしゃぐしゃになった私の顔を見て、カカシはドン引きした表情を見せるが、もう知らない!その胸に顔を埋めれば、「鼻水つくからやめて」なんて嫌な顔しながらも、引き離さずよしよしと慰めてくれる。そんな優しさにまた涙がこみ上げる。
「ミナトさん結婚しちゃった…、ねぇカカシどうしよう、私お祝いの言葉一つも言えなかった、結婚、して欲しくなかった。ずっとずっと好きでいたかったのに…っ!最後ぐらい、私の気持ち、知って欲しかったっ!」
こんな器の狭い女、こんな醜い女、他の人が見たら幻滅しそうだ。だけどこの能面男になら別にいいや。今だけ許して。
「ナナミの先生への気持ちは俺が知ってるから、お前の一途な所は俺がよくわかってる」
その言葉に、ぎゅっと胸が締め付けられた。優秀で賢くて強いカカシ。そんな彼が私の長年の想いを知ってくれているなら、私の恋心は散ってはいないのかもしれない。ちょっとだけ気持ちが楽になった。
だからもうこれ以上鼻水つけないで。
そう言って、私を引き離すカカシに「うるさい!鼻水なんてつけてないし!」と可愛げもない言葉しか出てこないけど、なんだかいつもの自分に戻れたみたいで、カカシの優しさに救われた気がした。
「一途は辛いね」なんて乾いた笑いを浮かべる。
恋沙汰なんてなさそうカカシにはきっと理解できないだろうな。暇なだけでしょ、とかなんとか辛辣な言葉が返ってくると思っていたが、意外にも無言な反応にチラッとカカシに目をやる。
「もうナナミの口から先生の名前聞かなくて済むって思うとせいせいするよ」
…確かに叶わないとわかっている恋愛相談を聞かされるのは第三者としてはつまらないだろうし、カカシのことだからめんどくさく感じていたのだろう。
「ごめんなさいねミナトさんミナトさんうるさくて!」
そう言ってやると、カカシは「はぁ」と呆れたようなため息をついた。おいおいなんなんだコイツだ。せいせいしたなら、ため息なんてつかないでもらいたい。