第1章 始まりは唐突に【はたけカカシ】
失恋した。そもそも想いを伝えていないから失恋と言っていいのかわからないが、私の長年の憧れに似た恋心が無念にも散っていったの確かだ。
ミナトさんが結婚した。
ミナトさんは里の人気者だった。強くて、優しくて、親しみやすくて、顔も良くて、何より笑顔が素敵な人だった。
憧れていた、大好きだった。ずっと追いかけたいと思う唯一の人だった。
だけど、10歳も年が離れているし、「先生!先生!」と尻尾を振る私は、ミナトさんからしたら本当にただの可愛い教え子としか見えていないのだろう。
それは痛いほど理解していた。理解していた上で、想い続けるのは罪ではないと、心の何処かで思っていた。叶わなくとも、想いを伝えられずとも、好きで在りつづけたい。自己満に似たこの想いを私はこれからも抱えていくのだろう、とそう思っていた。
「…っ」
おめでたい。おめでたいのはわかっている。クシナさんとはイイ感じだったのも知っていたし、里のみんなはお似合いだと口を揃えて言っていた。
だけど、実際に”結婚”という現実を突きつけられると、想い続けることは罪であると嫌でも感じてしまう。
誰かのものなってしまったミナトさんを好きで在り続けることに罪悪感を感じてしまう。
終わったのだ。私のこの長年の恋は。あまりのショックで、結婚の報告を耳にした瞬間その場から逃げた。それも全力疾走で。
祝いの言葉一つも言えなかったな。
本当は先生のこと大好きだったんです。って最後の最後ぐらい本音を言えば良かっただろうか。
でもあの人ちょっと鈍感だから、好きの意味を履き違えるんだろうな、あぁそんな所も好きだったな。やばい泣きそう。
とぼとぼと俯きながら帰路を辿っていると、「ナナミ?」と誰かに声をかけられた。
この声はカカシだ。なんていうバットタイミングなんだ。流石すぎる。察しのいいアンタなんだから、ここは空気読んで声なんてかけんな。アンタの師の結婚報告にただいま泣きそうですとか言ったら哀れみの顔を向けられそうだ。絶対顔あげてやるもんか。
このまま無視して通り過ぎようと思ったが、そうはさせないと肩を掴まれる。
「先生、お前のこと探してたよ」
ナナミに一番最初に祝って欲しかったって。
そう続けたカカシに、両方の眼にいっぱい溜った涙が、ぽろっぽろっと玉になって溢れてでた。